第2話






 


 どの国も過ごしやすい気候になるころ、男が辿り着いたそこは渓谷の国。

 風が心地よく、遠くには風車群が見てとれた。

 そよ風に靡く草木の音が心地いい。

 

 丘の上から遠くに見える街は煉瓦造りが立ち並び、人波もそれ相応に。むしろお祭り前夜の気さえ感じられ、見たところ被災しているとは思えない。

 男は、

 

 嵐の猛威は去ったのか

 ざっと見た所、風の魔石の被害はないな……

 

 と、思いながら歩く。

 人間は魔法が使えない。

 代わりに魔石という火や水など力が込められたものを加工、使用して、戦闘はもちろん。生活の一部にもしていた。

 


 それが暴発する時があった。大抵魔石の採取が魔物から。だから放置された死骸から燃え広がったり、水害を起こしたり……

 今回は暴風。風。


 魔石の基本の四元素、火水風土の内の風。

 推測して男は、

 

 ——風、嵐の被害、と聞いたが

 ……風は止まっているな

 

 と、遠くに見える風車や周りの家の所々に見える風車を見て男が思った。

 普段ここはそよ風よりもっと強い風が谷から吹き出していた。普段と比較すると異常。


 そういう事を事細かに宿の女将が男に伝えた。男はこの女将に何となく親しみそれ以上の何かを感じていた。

 

「……そういう訳で、もしかしたら風の神様がこの地を見捨てられたのではないかと、皆……特に神官達が噂しているのです

 

 どうかお願いします」

 

 と、言われ「あ、ああ、わかった」と男が戸惑いながら返事をした。

 女将は?と首を傾げながらも、

 

 ——もしかしたら、宿の勝手がわからないのでは

 と、察して、一通り室内を案内してから、部屋を出た。

 

 ギルド長が宿や乗り物、人間などそういう下地は全部敷いてくれたようで、男はその任務を完遂するだけ。

 しかし難しい依頼な気がして、「はあ」とため息をついた。そして、


 ——つまり神様探しということか。

 とりあえずは、その風の神の神社に行こう


 と、明日の予定を頭の中で組んでから窓から外の景色を眺めた。


 己の城に舞う白ではなく赤や青。黄色や桃色。さまざまな花が植えられ男の視界を彩ってくれた。


––––あの人にも見せたかった

 

 と、女将と話し、殊更その人を想いながらその景色を眺めた。

 

 この宿、宿泊以外にも客室からも見える花園も名物なようで圧巻であった。

 花には詳しくはない男もいい酒の肴だと窓の縁に座り眺めていた。


 その内の小さな紫の花を見た時、客室の扉から、

 

「紫蘭様」


 と、男を呼んだ。

 それが男の今の名前となっていた。

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