第45話 ウロン・A・チャット ⑤
失敗しました!
大失態です!
≪まさか3人とも来るとは……正に大誤算だったといえますね≫
誰か一人でも引っ掛かればラッキーかと思い、全員に声をかけた事が裏目に出ようとは!
くぅ、3人そろってドスケベ女だったとは。
こんな事ならティアースだけにしておくべきでした!
まあいいでしょう。
裏を返せば、風呂に誘われればやって来るほど全員の好感度が高い事の証。
このまま上手く行けば、きっと3人の内誰かとくっつく事間違いなしです。
≪その通りです≫
ところで。
道中一緒だったバーリという青年とは、いい友人関係を築けそうなんですか?
アバターの報告で、彼は
平和な日本で生まれ育った勇人が、彼と上手く交友関係を結べるのか少し心配で聞いてみた。
≪意外と波長が合う様で、彼ならきっといい友人になってくれるはずです≫
そうですか。
友人が出来、恋?も順調。
そろそろ勇人とは本格的に距離を置き始めた方がいいのかもしれません。
ただ一つ心配なのは――
顔が良いんですよね?
≪ええ、それはもう≫
私は軽くため息を吐く。
バーリという青年が、勇人の恋敵にならない事を祈るばかりだ。
◇◆◇◆◇
そろそろ、本格的に眠りに就こうと思う。
彼の危機に対応できる様、魔力を少しでも多く温存しておく為。
そして……勇人と離れる準備の為。
コミュニケーションを取らなければ、自然と心の距離は離れていくはず。
特に周りが騒がしい今なら猶更だ。
少し寂しい気もするが、今の勇人ならきっと大丈夫。
だって、彼はもう一人じゃないんだから。
だから私は、早い段階で勇人との別れを決める。
ただ、勇人は事恋愛において鈍すぎるきらいがある。
そこだけが心配ではあったが、そこは
◇◆◇◆◇
「勇人さんとはお別れだという事です。永遠に」
眠っている所をアバターに叩き起こされ。
事情を聴いた私はいい機会だと判断し、勇人に別れを切り出す。
「広範囲の探索魔法は凄く魔力を消費するんです。勇人が攫われた時、なんで私が探さなかったと思ってるんですか?探索魔法で勇人を見つけ出しても、神様に見つかって連れ戻されてしまっては意味が無かったからですよ。まさかとは思いますが、私がめんどくさがって探さなかったと勇人は思ってないでしょうね?」
勇人が誘拐された時の様な超広範囲の探索魔法でもなければ、実はそれほど魔力は必要ありません。
ですが、それを彼は知らない。
誘拐された際、勇人の元に向かわずアバターに任せたおかげスムーズに嘘が付けました。
アバターには感謝です。
「それで?どうするんです?」
私は勇人に二択を迫る。
正直今の彼にとって、アーリッテの命と、私との別れなら迷うまでも無いと思っていました。
でも、彼は迷い苦しみます。
正直、これは想定外でした。
もう少しすんなりいくと思っていた私は、動揺から思わず声を荒げてしまいます。
「い、いつまで悩んでるんですか!?アーリッテはいつ殺されてもおかしくないんですよ!!」
私の言葉を受けて、勇人は辛そうに俯く。
この程度で動揺するとか、ほんと我ながら情けない限りです。
勇人を導くべき天使が、彼を苦しめてしまうとは……
これ以上勇人が苦しむ様を見てはいられません。
出来れば自分の意志で進む先を決めて欲しかったのですが、私は彼の代わりに決断を下します。
「決めました。私は――」
「ウロン」
「なんです?今大事な話を――」
「俺も決めたよ」
勇人が私の言葉を遮った。
そして此方を真っすぐに見つめ、彼は自らの口で別れの言葉を告げる。
「ウロン。アーリィを助けたい。力を貸してくれ」
「いいんですね?」
「おう!頼むよ!ウロンには迷惑かもしれないけど、この通りだ!」
勇人……
クレンモールの路地で、孤独と恐怖におびえていた少年はもういない。
自分が彼を上手く導けたなどと、口が裂けても言えなはしない。
それでも、彼は私の想像を遥かに超える程強くなってくれた。
勇人、今のあなたは凄くかっこいいです。
もし私が人間として生まれていたなら、きっと間違いなくあの三人の仲間入りをしてたでしょうね。
嬉しくて思わず破顔してしまう。
彼が下を向いていてくれて本当に良かった。
「よっと、終わり!情報はアバターに渡しておきますね!それじゃあ、神様の雷が落ちる前に私は土下座しに行ってきます!勇人!アデューです!」
私は探索魔法でアーリッテの居場所を見つけ。
魔法をアバターに引き継ぎ、勇人に別れの言葉を告げて彼の中で眠りについた。
勇人、頑張って。
願うなら、私が力を使うべき危機が勇人に訪れることなく、彼が平穏無事に暮らせます様に。
◇◆◇◆◇
≪マスター、どうかお力をお貸しください≫
アバターの声で目覚め、状況を確認する。
≪申し訳ございません。私の力が及ばないばかりに≫
相手が魔人では仕方ないでしょう。
気にしないで。
私は魔人全体を取り囲む様に結界を張る。
内部での魔力反応を外に漏らさない様にする為だ。
かつて勇人は魔人ズィーによって連れ去られている。
あれは私のせいだった。
何も考えずに魔力消費の大きい言語習得の魔法を勇人に使ったため、それを感知した魔人ズィーが勇人に目を付けてしまったのだ。
だから魔力反応を漏らさないよう、私は結界を張る。
同じ過ちを繰り返さない為に。
「オメガパワーなんて連発したら、本気で頭がパーになってしまいますよ!」
「ウロン……なんで……」
勇人は私を見て幻覚だとでも思ったのか、目をごしごしと擦りだす。
そんな彼に、私は現実であるとはっきり宣言する。
「幻覚ではありません!勇人を助けに来てあげました!感謝しなさい!」
決まった。
私の生涯最後の決め台詞。
そして最高のどや顔。
「ただし、これが正真正銘ラストです!次からは精々自分で頑張りなさい!」
私は自分に残されたすべての魔力を光の刃と変え、魔人に向かって放出する。
全ての魔力を使い果たし、最初にやってきたのは倦怠感。
次いで激痛が全身を襲う。
体などとっくの昔に失っているというのに……
何故痛みを感じるのか……
不思議で……仕方ありませんね……
「やっぱ俺、ウロンが好きだわ」
その一言を聞き、思わず涙が零れそうになる。
完全に一本取られました。
不意打ちもいい所です。
「これから分かれる相手に……告白して……どうするん……ですか……」
「お、おい!ウロン大丈夫か!?」
「ちょ、ちょっと力を使いすぎて……この世界の体が……もう、持ちそうにないです……」
右腕から痛みが引きます。
見ると、崩れ落ちて跡形もなく消滅していました。
「ウ、ウロン!」
「ぐ……ぅ……勇人。冗談抜きで……これが……最後です。もう私は……あなたを救って……あげれらない」
「分かってる。俺、強くなるよ」
勇人……本当に良い男になったね……
「良い……目です……」
体からどんどん痛みが消えていき。
自分の終わりが、目の前に迫っているのがはっきりとわかる。
「精々……精進しな……さ……い」
意識が消えていく。
周りが見えなくなり、凄く寒い。
ああ……これが死ぬってことなのかぁ……
消えてなくなる瞬間、もう目は見えないのに、勇人の寂しそうな顔が見えた気がした。
ゴメンネ……
サヨウナラ……
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