第43話 ウロン・A・チャット ③

私はウロン・A・チャット。

この度、精霊から天使になったばかりの新米天使。


そんな私の初仕事は、ななな、なんと!

転生なのです!!


若くして命を落とした哀れな子羊に神の力おんけいを与え。

転生魔法で新たな人生を与える仕事。


正に大役!

やりがいのある仕事に、胸の高鳴りが止みません!


私は手にした手帳をパラパラとめくる。

この手帳には転生対象の情報が事細かに乗っているので、それで被験者の事前チェックを行います。

私に抜かりはありません。


えーと、対象は山田隆さん18歳。

好みのタイプは婦警さん。


ふむ、婦警か。


どうせ生まれ変わるなら、好みのタイプに転生させてもらった方が嬉しいだろう。

そう思い、私は相手の好みの服装へと着替える事にした。

魔法を唱えると身に纏う白の法衣が光の粒子へと変わり、瞬く間に婦警姿へと形を変える。


あっ!?


自分の姿を確認しようと手鏡を魔法で出したのがまずかった。

その際、誤って手帳を落っことしてしまう。


まあいいでしょう!

情報はもう既に頭に全て入っていますから!


そう思い、気を取り直して目的地へと羽搏く。


だがそれは大きな過ちだった。

私は記憶違いから本来向かうべき場所ではなく、その向かい側の家へと突撃してしまい。


そこで大失態を冒してしまう。


◇◆◇◆◇


やらかした!

やらかしてしまった!!

生きた人間に転生魔法をかけてしまうなんて!!!


しかも生きていた状態でかけてしまったため、転生部分がスキップされ、止める間もなく即転移されてしまった。

余りの出来事に血の気が引き、顔が青ざめる。


初仕事だというのに、自分は取り返し付かないミスをしてしまった。

泣きそうになるが、今はそれどころではない。

とにかく今は神様に報告しないと。


そう思い、私は急いで天界へと向かう。


◇◆◇◆◇


審問。


私の大失態に対する審問が行われる。

今はそれどころではない。

間違って飛ばしてしまった少年が、向こうの世界で命を落としてしまうかもしれないのに。


彼のスキルはFランク。

とても異世界で安全に暮らせるレベルの能力ではなかった。

しかも転生魔法はスキップされている。

一刻も早く救助の必要があった。


私はそれを訴える。

だが、神様から帰ってきた答えは無常な物だった。


「一度異世界に転移させた者を、元の世界に戻す事は出来ない」


「私のミスなんです!!」


「たとえそれが、天使のミスだったとしてもだ」


「そんな……私はどんな罪に問われても構いません!だからあの少年だけは!どうか御慈悲を!!」


だが私の願いは聞き遂げられることは無かった。


私に下されたのは世界への回帰しけい

取り返しのつかない愚かなミスを犯した私には、それは当然の刑だ。

そこに不服は無い。


だけどあの少年には何の罪もない。

私は最後の最後まで、諦めずに彼の救出を嘆願する。

このままでは、死んでも死にきれない。


そんな私の思いを汲んでくれたのか、神様が私に慈悲を下さった。

少年を元の世界に戻すのは無理だが、彼が向こうの世界で生きて行くサポートをする許可を私に下さったのだ。

但し、肉体は求刑通り世界へと返す事になる為、魂だけでの行動となる。


魂はとても不安定な物で、魔力なしには維持できない。

そして肉体が無ければ、魔力の回復は行えなかった。

その為、今有る魔力が無くなれば、私は消滅してしまう。


「その状態で消滅すれば魂は完全に無に帰し、生まれ変わる事も出来ない。それでも良いのか?」


「はい。寛大なお慈悲、感謝いたします。」


私に迷いは無かった。

神様へ深々とお辞儀をし、私は魂だけとなって少年の元へと向かう。


◇◆◇◆◇


いた!

よかった!無事だった!


クレンモールの路地で少年――高田勇人――は一人蹲っていた。

私は恐る恐る彼へと近づく。


少年は泣いていた。


当然だ。

いきなり訳の解らない世界に飛ばされて。

言葉も通じない――本来は転生魔法の効果で習得できる――場所で、16歳の少年が平気なわけがない。


なんと謝ればいいのか、言葉が思い浮かばなかった。

そもそも謝った所で許される様な問題ではない。


私は意を決し、少年に声をかける。


「あのー」


私の声を聴いたとたん、驚いたように少年の顔が跳ね上がる。

そして私の姿を見て、動きを止めた。


驚くのも無理はない。

今の私は魔力の消費を抑えるために、寸借をかなり小さく抑えている。

小さな体に翼を持つ私は、さながら妖精の様に彼の眼に映っている事だろう。


「君……は……」


「私の事。分かりますか?」


「あ、ああ……」


彼は涙でぐしゃぐしゃの顔を袖で拭い。

笑顔を此方へと向ける。


「勿論だよ。ハニー!」


ハニー?

どうやら彼は、ストレスから思考に異常が生じてしまっていた。


私のせいだ。

そう思うと涙が滲む。

私に泣く資格なんてないのに。


「ごめ……ごめんなさい。わた……わたしのせいで……」


彼が無事だった事と。

申し分けなさで涙が止まらない。


「泣かなくていいよ」


「ごめっ……ひっく……ごめんなっしゃい……うっぅっ……」


「俺を迎えに来てくれたんだろう?だったら謝らなくていいさ」


「かえれ……ないん……でっうっく……もう……かえれない……かえれないんです!!」


「ええっ!?」


「ごめんなさいーー!!」



こうして彼と私の異世界生活が始まった。

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