第41話 ウロン・A・チャット ①
≪ミスター!≫
アバターの声が頭に響く。
気づけば辺りには誰もいない。
どうやらサキュバスを倒しきる事は出来た様だ。
≪ミスター!!≫
聞こえてるよ。
頼むから大声で叫ぶのは止めてくれ。
頭が少し痛む。
それに少し気分も悪い。
俺は頭に手をやり、溜息を吐いt。
≪良かった。その様子なら心配はなさそうですね≫
いや、頭が結構痛いんだが?
≪受け答えが出来てるなら問題ありません。頭痛は経費と思って諦めてください。それより、今がチャンスです。相手が動き出す前にダッシュを使ってこの場から退避してください≫
は?
倒したんじゃ?
≪ダメージを与えたとは思いますが、残念ながら辺りを取り巻く魔力は消滅していません。ですので、ダメージで相手が止まっている隙にこの場から離脱を≫
マジかよ。
魔人って奴はよくよくとんでもない化け物だと痛感させられる。
俺は急いでスキルをダッシュに変え、その場を離れようとするが――
「やってくれたじゃない」
何処からともなくサキュバスの声が響く。
その声から相手の怒りがありありと伝わって来る。
「まさか、虫けら如きに本気を出す羽目になるなんて。まあいいわ、遊びはもうお終いよ。死になさい!」
「なんだ!?」
突然全身から力が抜ける。
魂すら引き抜かれそうな不快感に立っていられず、膝を着く。
サキュバスの攻撃か?
だが何故オートガードが発動しない!?
≪これは
咄嗟に等価交換で確認するが、スキルは見当たらない。
≪スキルではありません。蛭が血を吸うのと同じで、単純にミスターの生命エネルギーをサキュバスが吸い取っているのです≫
ここが魔人の腹の中に等しかった事を思い出す。
オートガードが発動しなかったのは、全方位からの攻撃で回避自体出来なかったからか。
しかしきつい。
体からどんどん力が抜けていき、今にも倒れてしまいそうだ。
このままじゃヤバイぞ。
≪等価交換で自身の周りに
アーリィを守るために使おうとしていたあれか。
俺はアバターの指示に従い魔法を発動させる。
4枚の光の壁が俺を取り囲むように現れ、それが俺に向かって倒れ込む。
壁が俺の頭上で交差して混じり、ピラミッドの様な形が組みあがって
先程迄感じていた、何かを抜き取られるような虚脱感が収まる。
少しふらふらするが、俺はゆっくりと立ち上がった。
辺りを見回すが、サキュバスの姿は見当たらない。
「いったいどうすりゃいいんだ」
思わずぼやく。
≪
異変を感じ、アバターの言葉が止まる。
目の前の空気が圧縮されたかの様に密度を増し、空間が歪む。
やがてその大きな歪みは人型を形成し、サキュバスの姿へと変わっていく。
但し、その大きさは先程のまでとは比べ物にならないサイズだ。
「でけえ……」
目の前に立つ、巨人と化したサキュバスを俺は見上げる。
軽く5メートルはあるだろう。
≪質量を増やし、パワーで無理やり結界を押し潰すつもりです。このままでは……≫
「まったく、手間をかけさせてくれるわね」
サキュバスの野太い声が響く。
先程までとは打って変わり、その声は低く太い耳障りな物へと変わっていた。
それは巨大な体の影響か。
もしかしたらこの不快な声こそが、奴本来の声なのかもしれない。
サキュバスが腕を振り上げ、
凄まじい衝撃に地面が揺れ、俺を取り顔む光の壁からビキンと鈍い音が響いて罅が走る。
凄まじいパワーだ。
巨大なサキュバスは質量も相まって、その力は先程までの比では無かった。
このままでは数発ともたず魔法の結界は崩壊してしまう。
再変換で張り続けようにも、
ひたすら結界を張って凌ぐのは不可能である。
「だったら!」
守って駄目なら攻めるまでだ。
形があるなら斬り飛ばせる。
再びオメガパワーを使って奴を倒す!
「アバター!爆炎を頼む!」
オメガパワーにはクールタイムが存在する。
だがそれはスキル自体に発生するもので、俺自身に発生する物ではない。
その為、スキルさえ入れ替えてしまえば連発する事も可能だった。
但し元となったスキルやアイテムが同じでは、再変換してもクールタイムがそのまま残ってしまう。だから俺は新たに爆炎をアバターに求めたのだ。
だが炎皇剣の纏う炎は一向に変化しない。
結界に再びサキュバスの腕が振り下ろされ、罅が更に広がる。
俺は焦ってアバターを急かす。
「アバター!早くしてくれ!」
だが返ってきたのはアバターからの返事ではなく、頭上からの、よく聞きなれた声だった。
「勇人は馬鹿ですか?」
え?
聞こえるはずのない声に、思わず上を見あげる。
そこには……
「オメガパワーなんて連発したら、本気で頭がパーになってしまいますよ!」
「ウロン……なんで……」
ウロンは帰って行ったはず。
オメガパワーの影響で幻覚でも見ているのか?
そう思い、俺は目をごしごしと擦り何度も見直す。
「幻覚ではありません!勇人を助けに来てあげました!感謝しなさい!」
そう言うと、ウロンはどや顔で偉そうに空中で踏ん反り返った。
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