第22話 デカさは強さ!
「そのお二人が、勇人のおっしゃっていた方達なのですか?確か1名とお聞きした気がするのですが」
「いや、まあ色々とあって」
「バーリだ!よろしくな!」
「あ、あの。ウーニャと申します。よろしくお願いします」
バーリが陽気に片手を上げ、ウーニャは深々とお辞儀をする。
あの後バーリを回復させ。
集落の遺体を弔い。
一晩過ごしてから、俺は二人を連れてアーリィ達と合流している。
2人を前に、アーリィは戸惑いの色をみせた。
なにせ人数が増えた上に、連れて返ってきたのがアホっぽい半裸の脳筋野郎と、この辺りではめったに見ない
「えーと、やっぱ不味いかな?」
「まあ別に宜しいですわ。ベラドンナ家が雇う訳ではありませんし。ただ、同行するというのならそれなりの格好をして頂く必要がありますけども」
ベラドンナ家の成人の義において、連れて行ける従者は3人までと決まっている。
それ以外を外で雇ったりする事は出来ない。
但し、同行者事態に制限は無かった。
「分かってる。バーリにはちゃんと服を着させるよ」
格式高いベラドンナ家の令嬢の周りを、半裸野郎がちょろついてたら風聞が悪いだろうしな。
その辺りは理解しているさ。
「バーリさんだけではなく……」
アーリッテは言い難そうに口ごもる。
そのアーリッテに変わって、ティアースが口を開いた。
「失礼ですが、ウーニャさんはケモナーでいらっしゃいますよね?この国においてケモナーは、立場が余り宜しくありません」
ウーニャの表情が硬くなる。
そんな彼女の様子に気づいたバーリが、ティアースを睨みつけた。
「そんな怖い顔で、睨みつけないでください。誰もついてくるなとは言ってません。
ただ、ケモナーである事を隠せる格好をして頂きたいだけです」
「ごめんなさい」
ウーニャが俯き、か細い声で謝った。
別に彼女が悪いわけではない。
だが、世の中には差別や偏見等といった、どうしようもないものはあるものだ。
一応ケモナーについては、アバターからざっくりとした説明を受けてはいたんだが……
アーリッテ達の態度から、思っていた以上に深刻な溝がある事を知る。
「ウーニャは悪くないぞ。だから謝らなくてもいい」
バーリがウーニャの両肩を掴み、顔を覗き込んで優しく諭す。
「バーリさん……」
あのあほの子全開だったバーリが、たった一晩で他人を思いやれる好青年に生まれ変わっている事に、正直驚きを隠せない。
「けっ!朝っぱらからいちゃつきおってからにです!これだから盛りのついたケダモノ共は!」
≪繁殖するしか能のない生き物は、本当に手に負えませんね≫
お前らいくら何でも酷すぎじゃね?
ケモナーへの差別や境遇から、悲しい思いをするウーニャを心配して慰めるバーリ。そんなどう考えても心優しく胸温まるシーンで、当たり前のように罵詈雑言を浴びせる二人の言動に、軽く眩暈がしてくる。
「バーリさんのおっしゃる通り、謝る必要は御座いませんわ。只ベラドンナ家は立場上、どうしても亜人種の方々と表立ってお付き合いをする訳には行きませんの。どうかその辺りを、御理解頂けないでしょうか 」
そう言って、今度はアーリッテは頭を下げた。
「お、お嬢様!?わざわざお嬢様が頭を下げる必要などありません!」
「いいえ、彼らは勇人の友人です。その方達に此方が無理を言うのですから、私が頭を下げるのが筋というもの」
アーリィはそう言ってはいるが、そもそも俺が勝手に連れて来た連中である。
同行の条件に関しては当然の事なので、本来なら彼女が頭を下げる必要など全くない。
それでもこうやって頭を下げてくれるのは、俺の顔を立ててくれているためだろう。
ありがとう、アーリィ。
口には出さないが、心の中で礼を言っておく。
可能ならば、この借りはいつか返したいところだ。
「あ、あの、頭を上げてください。わ、私は全然大丈夫ですから」
アーリィの思わぬ行動に固まっていたウーニャが正気を取り戻し、手をわちゃわちゃさせて慌てふためく。
「では、わたくし達の我儘を受け入れて頂けますか?」
「あ、は、はい。大丈夫です。大丈夫です」
ウーニャは首かくかくと縦に振る。
その肩にバーリが手を置き、ウーニャの目を真っすぐ覗き込みながら口を開いた。
「ウーニャ。嫌なら嫌って、言ってもいいんだぞ?」
「バーリさん。ありがとうござます。でも本当に大丈夫です。それに私が変装するのは、私自身の身を守る事にもなりますから。だから気にしないでください」
「そっか。わかった」
「話が纏まった様なので、早速着替えて頂きましょう。バーリさんには少し小さい気もしますが、勇人さんの服を。ウーニャさんには、メイド服と大きめのカチューシャをお貸しいたします。ではウーニャさんは此方へ」
「あ、はい」
ティアースがウーニャを連れて応接室を出て行く。
そしてそれに当たり前の様に、バーリが付いて行こうとする。
「おいおいおい。どこ行くつもりだ?」
「ん?ウーニャの行く所」
「いやいやいや、付いてったらダメだろ。これから着替えるのに」
「着替えると何がダメなんだ」
「いや、そりゃ裸になるわけだし……まあとにかく、付いて行くな」
「んー……わかった」
裸になるからなんだと言わんばかりの目で、バーリが怪訝そうに返事を返してくる。その反応から、ひょっとして二人はもう既にそういう関係なのかと一瞬勘ぐってしまう。
って、いくら何でも流石に1日でそれは無いか。
≪繁殖期の獣なら、出会って3分でドッキングしたりしますので十分あり得ます≫
いやねーよ。
いくらバーリの面がいいからって、流石にそれは無いはず。
というかそう思いたい。
出ないと腹が立つから。
「世の中顔なのです!」
≪マスターのおっしゃる通りです≫
うっせー、世の中真心だ!
俺がウロン相手にそれを証明して見せる!
「そんな夢絵空事より、あの糞ビッチを狙うと良いです!」
唐突にウロンがアーリィを指さし、失礼な敬称を叫ぶ。
「あの糞ビッチは間違いなく勇人の事を狙ってます!でないと、無駄にプライドの高そうなあの女があんなバカップルに頭を下げるハズがありません!」
どうやらウロンの辞書には、思いやりや気遣い、誠意といった単語は乗ってない様だ。
まあ知ってたけど。
≪絶対者に限りなく近い天使であるマスターに、その様なちんけな感情は必要ありませんから≫
ちんけってお前……
≪ミスターは、気遣いや誠意というものに夢を見ているようですが。それらは言ってしまえば、相手からの印象を操作し、自分の望む形に相手を誘導する為の小細工でしかありません。つまり、メリットがあるから行われる損得行動です。実際ミスターも、借りが出来たと感じたでしょう?≫
それは幾らなんでも考えが穿ちすぎだろう。
アーリィが損得を考えてやっているとは、到底思えない。
≪頭で考えていなくとも、本能的に理解して行動しているのですよ。童貞には分からないでしょうが、女とはそういう生き物なのです≫
本当にそうなら、凄く嫌な話だ。
もっともアバターのいう事を鵜呑みにする気はないが。
「バーリ、お前も着替えなきゃならないから付いて来いよ」
不毛な言い争いをしていても仕方ないので、俺はバーリを着替えさせる為に部屋をでる。
するとそれまで黙っていたリリーが口を開いた。
「勇人」
「ん?」
「随分汚れている様だから、彼を先に風呂に案内してやってくれ」
しばらく一緒にいて慣れていたせいで失念していたが、確かにバーリは汚い。
しかも改めて臭ってみると、相当獣臭くもある。
いくら装いを改めても、こう汚くっちゃ確かに話にならんわな。
「わかった。連れてくよ」
リリーに返事を返し、俺は部屋を出た。
通路を歩いていると、バーリが聞いてくる。
「なあ勇人?風呂ってなんだ?」
「汚れを落とす所だ」
「ふーん」
「ぷぷぷぷ、風呂も知らないとか。本当に残念な生き物ですね!」
「なあ勇人?こいつなんか腹が立つし、ぶっ飛ばしていいか?」
「悪い。残念な奴なんだ。気にせず無視してやってくれ」
バーリにはウロンが見えていた。
ウロンの姿を消す魔法は、俺に見える様、特殊な調整がしてある。
そのため転生者の血を半分引いているバーリにも、ウロンの姿が見えてしまっているのだ。
「なーにがぶっ飛ばすですか!私が見えるからって、調子こきすぎです!やれるものならやってみろです!」
「どうしても殴っちゃダメか?」
「俺に同行するってんなら、我慢してくれ。頼むよ」
「しゃーねーな」
風呂場の前に付き、扉を開けて入るよう促す。
俺はバーリが風呂に入っている間に、変えの服を取って来る事にする。
「んで?入って何すりゃいいんだ?」
ああ、しまった。
風呂の存在を知らないんだから、そら設備の使い方も知らんわな。
≪ドジっ子属性で、マスターの母性本能を擽る作戦ですか?≫
そんなせこい真似するかよ。
俺はいつでも真っ向勝負だぜ。
そもそも、ウロンに母性本能とか絶対ないだろ?
≪無いですね≫
「当たり前です!私を他のチョロイン共と一緒にして貰っては困りますね!」
ウロンは胸を張って偉そうに踏ん反り返っているが、母性本能が無い事は決して褒められた事ではないのだが……まあ本人が満足してるならいいか。
「使い方を教えてやるよ」
≪殿方同士でお風呂……BLですか?≫
俺はアバターを無視して、バーリに風呂の説明を始める。
服を脱ぐと説明すると、ウロンがいるにも関わらずバーリは勢いよくパンツを脱ぎ棄てた。
「何と!これは偉いこっちゃですよ!」
≪お見事です≫
「なん……だと……」
俺の男としてのプライドは、バーリによって粉々に粉砕される。
奴のゴン太さんによって。
ていうかこんなとんでもないブツ、あのパンツの何処に隠してたんだ!?
この日から暫く、俺はゴン太さんの夢にうなされる事になる。
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