第14話 夢見
グリフォン
獣の様な体に、鷲の頭部と翼を持つCランクの召喚獣。
魔法の力によって異世界から召喚され、戦闘以外にも足場の悪い場所の移動に用いられる事が多い。
―――モンストーン市・東(山間部上空)―――
上空を悠然と飛行する影が見える。
グリフォンだ。
そしてその背には、3人の女性が騎乗していた。
――アーリッテ達である。
「アーリッテ様。この辺りでグリフォンを降ろして貰えますか」
彼女達の乗るグリフォンは、アーリッテが召喚した物だ。
そのため、そのコントロール権は彼女が持っていた。
「何故ですの?ドラゴンの住処まではまだ大分先ですわよ?」
リリーの言葉に、アーリッテが不思議そうに首を傾げる。
「このままグリフォンでドラゴンの住処近辺まで飛んでいけば、確実に気づかれます。万一上空で襲われては一溜りもありません」
成程と、リリーの言葉に納得したアーリッテはグリフォンを山肌の開けた部分へと降ろした。
グリフォンから降りた一行は、裾野に広がる森を慎重に進む。
途中で乗物から降りたため日中に到達は難しいと判断した一行は、日が沈んできた辺りで野営の準備を行った。
「これくらいでいいか」
リリーが適当に木を切り倒し、ある程度のスペースを確保したところでセーフハウスを発動させる。
展開したセーフハウスにアーリッテとティアースが入るのを見届けてから、リリーは自身の野営の準備を始めた。
まあ準備とはいっても、切り倒した木の枝を削ぎ落し薪を用意する事位ではあるが。
「リリー」
名前を呼ばれ振り返ると、一度中に入ったはずのアーリッテが何故か出てきていた。
「アーリッテ様。どうかされましたか?」
「暗殺者もこの辺りまでは追って来てはいないでしょうから、貴方も中で休むといいわ」
「いえ、万一の事もありますし。私はこのままで」
「駄目よ。このまま順調に進めば明日はドラゴンとの戦いになるわ。貴方には万全の状態で挑んで貰わないと」
そう言うとアーリッテはリリーの手を掴み、強引にセーフハウスの中へと連れて入った。
一歩セーフハウスの中に入り込むと、中は見た目からは想像できない程広い空間となっている。。
リビングに10畳ほどの部屋が6つ。
更には風呂・トイレ・キッチンまで完備されており、驚くべき事に、セーフハウス内には上下水道の機能まで備わっていた。
「アーリッテ様。私は立ったまま眠ったとしても、問題無いように鍛えております。ですから――」
「セーフハウスの出入り口には、魔法の錠があるから大丈夫ですわ。仮にそれを突破されても、それに気づかないほど貴方やティアースは間抜けではないでしょう?」
「それはそうですが」
仮にセーフハウス内部に入り込まれたとしても、リリーの腕前ならば問題なくアーリッテを守り切る事は出来る。
だがリリーが気にしているのは、セーフティーハウス自体の事だ。
「敵の攻撃でセーフティーハウスが破損しないとも限りませんし」
頑丈なマジックアイテムであるため、完全に破壊されてしまう事はまずないだろう。だが賊が此方を一気に始末する為に強力な魔法をこのテントへと放った場合、破損する恐れは十分にあり得た。
「問題ありませんわ。破損しても勇人の
等価交換は機能が大きく損なわれたり、極端な破損でもしない限りは、新品状態へと変換する事が出来た。
その為勇人さえ戻ってくれば、何も問題ない。
彼女は言外に、それをリリーへと告げる。
「わかりました」
リリーは1つ小さくため息を吐くと、了承を口にする。
「ですが。本当に勇人は戻って来るのでしょうか?」
「勇人の存命は、夢見によって約束されていますわ。余程の事が無い限り、夢見の未来が変動する事はないはずよ」
夢見――アーリッテが保有するBランクの
夢の中で未来を見通す効果を持つ、強力なスキルだ。
但しこのスキルには、大きな欠点があった。
任意には発動できず、見通す未来のタイミングもランダムという、大きな欠点が。
更に、状況次第では見通した未来すら変化してしまう不安定さも抱えていた。
とは言えアーリッテの言う通り、余程大きなイレギュラーでも発生しない限り、夢見の未来が覆得る事はない。
それはリリーも良く知ってはいた。
だが勇人が連れ去られた事自体が、イレギュラーなのだとしたら?
そうリリーは考える。
「正直、勇人を連れ去った者の力量を考えると生存は絶望的に感じます。ひょっとしたら、勇人が連れ去られた事自体が大きなイレギュラーだったのではないかと」
勇人が連れ去られた夜の事を、リリーは思い出す。
それは突然の出来事だった。
背筋に寒気が走る程の強大な魔力を感じたリリーが驚いてと振り向くと、そこには音もなく闇の中へと吸い込まれていく勇人の姿が。
だが、リリーは勇人を救うために動く事が出来なかった。
圧倒的で、その冷たく深い闇の様な魔力を前に、彼女は恐怖から体が竦み動けなかったのだ。
リリーはそれまでの人生を全て武に費やしてきた。
才能に溢れ、血の滲む努力を惜しまなかった彼女は弱冠17にして、
そこから更に2年。
驕る事無く精進を行ない。今や彼女の強さは人類屈指のレベルにまで達していた。
その彼女が恐怖で動けなかった程の、魔力の持ち主。
いくら特殊なスキルがあるとはいえ、そんな相手に勇人が敵うとはリリーには到底思えなかった。
「私はあの時、動けませんでした」
リリーは不甲斐ない時分への苦い気持ちから、拳を強く握り込む。
そんな彼女の暗い気持ちに反して、アーリッテからかけられた言葉は予想外の物だった。
「それは良かったですわ」
「え?」
「下手に手を出して、貴方まで連れ去られていては事でしたもの。流石に護衛がいきなり二人も居なくなってしまったら、大変でしたわ」
「そ、それはそうですが……」
「大丈夫、夢見は決して外れませんわ。何より、勇人は貴方に勝っているのですよ。そうそう簡単に命を落としたりはしませんわ。彼を信じましょう」
※あっさり死にました。
「ふ、そうですね。アーリッテ様の夢見と、勇人の力を信じます」
リリーはアーリッテ程、楽観的に物事を捉えるつもりは無かった。
だが、主人に励まされている様では護衛は務まらない。
そう思って気持ちを切り替え、前向きな返事を返した。
アーリッテはリリーの返事に満足そうに頷くと、彼女の手を取り引っ張る。
「いつまでもこんな玄関先で立ち話をしていたら、ティアースに叱られてしまいますわ。さ、リビングへ向かいましょう」
「はい」
アーリッテに手を引かれながら、ふと勇人との約束を思い出す。
現実問題、勇人が生きて帰る可能性は限りなく0に近い。
だがもし……もし勇人がが死ぬ事無く生きて帰って来たならば……
その時は素直に実力を認め、勇人の気持ちを受け止めようとリリーは心に決めるのだった。
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