第12話 交配
パチパチと爆ぜる焚火の火を眺める。
転生してから7日。
やっと俺達は魔族領と人間領の境目、グル砂漠に差し掛かっていた。
この目の前の砂漠を超えれば、そこから先は人間の生活圏となる。
「アバター、俺が攫われた地点までは後どのくらいなんだ?」
≪攫われた地点まであと800キロといった所です≫
7日で700キロか。
ウルの足なら一週間もあれば1500キロ走破は容易い。
そう考えると、本来の半分も進めていない事になる。
≪魔獣を最低限避けつつ、起伏が激しい歪な魔族領の地形を進む必要がありましたので流石に1週間での走破は難しいかと≫
ああ、分かってるよ。
とは言え、かなりペースは遅い。
全てはバーリのアホのせいだ。
奴が強そうな魔獣を発見するたびに喜々として戦いやがるせいで、かなりペースが遅くなってしまった。
何故移動に転移魔法を使わない?
理由は簡単だ。
使うと、1時間Sランクスキルが使用不可能になってしまう。
転移後、万一魔神ズィーレベルの奴に遭遇したら、逃亡手段が無ければ完全にゲームオーバーである。
だから使わずに、温存して移動しているのだ。
「……」
視線を焚火からずらし、その横で大の字になって寝ているバーリを睨みつける。
大きく口を開け、涎を垂らすその寝顔は幸せそうで無性に腹が立つ。
しかしこいつ、どこからどう見ても人間だよな?
尻尾や角が生えてるわけでもなし、聞かされなければ絶対に分からない程バーリは人間の特徴しか持ち合わせていない。
≪外見上はそうですが、魔獣特有の魔力を身体能力に上乗せする機能がしっかり働いていますので、間違いないでしょう≫
魔獣ってそんなスキルを持ってるのか。
あれ?
でもバーリはそんなスキルもってないぞ?
等価交換で確認する限り、バーリは
≪スキルではなく、機能です。人間が腕を動かすのにスキルはを必要としないででしょう。それと同じ事です≫
成程、機能に近いって訳か。
確かに体を動かすのに、一々スキルは要らんわな。
≪もし身体機能がスキル扱いでしたら。魔王討伐はさぞや簡単だった事でしょう≫
心臓を動かすスキルをアイテムに変えるだけで勝ちだからな。
そうだったら、さぞ楽勝だった事だろう。
≪因みにAランクスキルの中には人間に翼を生やしたり、魔王を蠅にしたりと、やりたい放題の生命改変という、生物を自在に改造できるスキルがあります≫
ほんとにやりたい放題のスキルだ。
もし俺のスキルがそれだったら、ズィーもイチコロだったろうに。
まあない物ねだりをしても仕方ない。
≪己の不運を呪いつつも、身の丈に合った形で頑張りましょう≫
俺は別に、自分が不運だとは思ってないぞ。
何せ俺には、
彼女と出会えた幸運に比べれば、ガチャのハズレを引いたぐらい大した事じゃないさ。
≪御愁傷様です≫
何が!?
俺にはお悔やみ頂く事なんざ、何もないんだが?
≪そういう気障なセリフは、モブ顔ですと第三者からは滑稽にし映らないのでお気を付けください≫
ほっとけ。
大きなお世話だ。
しかし人間と魔獣って、子供を残せるんだな。
地球じゃ人間は別の種との間に子孫は残せないんだが、流石異世界と言った所か。
≪この世界の人間と魔獣の交配は不可能です。生物として、全く別物ですので≫
無理?
でもバーリはハーフって、アバターも言ってたじゃねぇか。
バーリ本人もそれを認めている。
なのに交配は無理とか、矛盾しすぎて意味が解らん。
≪この世界の人間には、不可能という事です≫
どういうことだ?
≪バーリは転生者と魔獣とのハーフです≫
マジで!?
そういやバーリの母親は、魔王の首を狙ってたな。
転生者だったからか。
ていうか転生者って、魔獣と子孫残せんのかよ!?
≪はい。転生者は転生特典として、どんな種族とも交配できるようになっています≫
そんなの聞いてねぇぞ?
初耳もいい所だ。
≪マスター狙いだったので、伝える必要はないかと思いまして≫
成程、確かにその情報は俺に伝える必要はないな。
何せ、俺はウロン一筋だし。
≪その気になれば転生者は、茶色くてかさかさ高速で動くGと呼ばれる憎いあん畜生とも交配可能です。一度試されてはいかがですか?≫
誰が試すか!
≪マスターなら大爆笑してくれると思いますよ≫
ゲラゲラ笑い転げるウロンの姿が頭に浮かぶ。
普通ならドン引きするところだが、あいつなら本気で喜びそうで怖い。
しかしいくらウロンを喜ばす為とはいえ、流石に出来る事と出来ない事がある。
≪残念です≫
本気で残念そうな声で言うな。
≪補足説明を致しますと。同性同士でも、子孫が残せるようになっています。バーリで試してみては如何でしょうか?≫
お前はいったい俺に何をさせたいんだ?
≪女性に大人気のBLというモノを、一目見て見たかったもので≫
誰が見せるかそんなもん。
気持ち悪いにも程があるわ。
≪そう遠くない未来、私はいずれ消え去る存在です。先の短い私のためと思って、どうか一つお願いできないでしょうか?≫
悲し気に伝えても無駄。
絶対やらね。
諦めろ。
≪チッ≫
…………
≪まあ、冗談はさておき≫
全然冗談に聞こえなかったんだが?
≪魔王討伐の為の名案が浮かびました≫
あの流れで生まれた名案とか、嫌な気しかしないだが?
まあ聞くだけ聞いてみよう。
≪バーリを見てわかる通り、魔獣とのハーフは相当身体能力が高くなる様です。ですので、魔獣との間に大量の子供を作れば、魔王討伐のハードルを相当下げられるかと思われます≫
俺の予想通り、アバターはとんでもない内容を提案してくる。
≪幸いウルは雌ですので、今晩からどうぞ。私は二時間ほど眠ったふりをしておきますので≫
振りじゃ意味ねぇよ!
じゃなくて、その辺りの案は全部却下だ。
何が悲しくてでっかい犬とまぐわらにゃならんのだ。
まあ仮にウルが美少女みたいな見た目だったとしても、俺はウロン以外と結ばれるつもりはないが。
≪儚い夢ですね≫
ほっとけ!
アバターと話していると延々この話が続きそうなので、俺は横になり目を瞑る。
≪BL、BL、BL、BL、BL、BL≫
何小声で不吉な単語囁いてんだ?
≪実は私、ミスターの夢も見る事が出来るのです。ですのでBL物の夢を見れる様にと≫
ふざけた事すんな!
≪夢なんですから、良いじゃないですか。どうせ起きた時にはほとんど覚えていないんですから≫
よくねーよ。
しょうがないので俺は耳を塞ぎ――無意味だが――ウロンウロンと唱えながら、眠りに就くのだった。
どうかウロンとイチャイチャする夢が見れますように。
≪それを見せられる私の気持ちにもなってください≫
そんなもんは知らん!
こうして俺の魔族領7日めの夜は更けていく。
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