第5話 スキル

固有ユニークスキル


通常のスキルとは違い、先天的才能によってのみ発露するスキル。

努力では決して得る事が出来ず、その力は特殊な物が多い。


―――ベラドンナ邸―――


「納得できません!」


そう叫ぶと、女は大理石のテーブルにドンと拳を叩きつけた。

するとメシッという鈍い音と共に、テーブルにヒビが入る。

とんでもない馬鹿力だ。


「こんなどこの馬の骨とも分からない者に、お嬢様の成人の儀の護衛を務めさせるなど!」


「落ち着きなさい、リリー」


「しかしお嬢様!」


彼女の名はリリー・アッシャー。

ベラドンナ家に仕える、アーリィ専属の騎士だ。


燃えるような緋色の目と髪を持ち、顔立ちは整っていて凄く美人である。

但し体は筋肉質で胸以外がっしりしており、その背丈も優に190へと届くレベル。

いわゆる、デカ女だ。


残念ながらいくら美人で巨乳でも、これだけごついと女としては見れない。


「これはもう決まった事ですわ。それに、勇人はとても頼りになりますのよ」


「この男がですか?」


「ええ」


胡散臭い物を見るような目で、リリーは此方を睨んでくる。


「わ!ゆーとさん!ものすっごく熱い視線で見つめられてますよ!これは間違いなくゆーとさんに惚れてます!!」


ウロン、お前の目は節穴か?

童貞の俺にすら、これがスキスキ光線じゃない事くらいはわかるわ。


「これはもうお誘いしたら、脱童貞ですよ!私の事は諦めて彼女にちょちょっと筆卸しして貰いましょう!!」


俺の目的は初恋の相手に童貞を捧げる事だ。

仮にここでリリーと結ばれたら、高いリスクを冒してまで魔王討伐など絶対しないわけだが……彼女は自分の言葉の意味をちゃんと理解しているのだろうか?


「そうだわ!折角だからお互いの実力を知る為に、一度手合わせをしてみるのはどうかしら?」


アーリィが名案を思い浮かんだかのように、両手の掌を胸の前でパンと打ち合わす。

此方としては迷惑極まりない提案なのだが。


リリーは相当強い。


俺は別に武芸者じゃないが、それでもこいつの強さが異常だって事くらいは分かる。

立ち居振る舞い。それに纏っている空気が明らかに違うのだ。

しかも大理石のテーブルに、素手でヒビを入れるパワーの持ち主と来ていた。


基本のスペックが俺とは余りにも違いすぎて、仮にスキルで全裸に向いたとしても勝つのは相当厳しいだろう。


「わかりました。そういう事でしたらこの男の化けの皮を、この私が剥いで見せましょう」


殺気の籠った瞳で、楽しそうに微笑む彼女をみて背筋に寒気が走る。

冗談抜きで、皮が物理的に剥がされそうで怖い。


「では。今から中庭で決闘を――」


「ちょちょちょ、ちょっと待って!」


「はい?」


「ちょっとだけ準備する時間をくれないか?俺は固有ユニークスキルで戦うタイプだから、本格的に戦う場合、事前の準備が必要になるんだ!だから1日時間を貰いたい!!」


逃げ出すための時間を!

100億は魅力的だが、よくよく考えたら俺に騎士が務まる訳もない。

大怪我させられても敵わんし、ここはとんずらするに限る。


「貴様……まさか臆したのではあるまいな?」


はい、臆しました。

アデューです。

さよならです。


「リリー。勇人に失礼ですよ」


失礼どころか図星です。

彼女を責めないで上げてください。


「気にしなくていいさ。それじゃあ、今日の所は一旦帰らせてもらうよ」


「逃げるなよ」


逃げるに決まってんだろ。

ばーかばーか。


「リリー!」


そして俺は逃げる様に、ベラドンナ邸を後にする。

というか逃げ出した。


―――安宿の一室―――


「それで、どんなえぐい手で彼女を手籠めにするんですか!?やっぱり全裸に向いて、襲っちゃう感じですか!?」


「するか!?ていうか戦わないし!」


「ほぇ?何でです?」


ウロンが心底不思議そうな顔で、首をかしげる。

そのあほっぽい仕草も超かわいい為、ついついぼーっと見惚れてしまう。


「勇人さん、急にアホ面になってどうしたんですか?」


……はっ、いかんいかん。


「ゴホン、ゴホン。んん……ウロンは気づかなかったのか?あのリリーって女、たぶん滅茶苦茶強いぞ?」


「そうですかぁ?人間の強さランクで言ったらAの上位ぐらいで大した事ないですよぉ」


「Aの上位って、お前それ上から数えた方が早い強さじゃねぇか!」


たいした事ありまくりだ。


リリーの強さは、圧倒的強者に分類される。

道理で素人の俺にすらその強さが伝わってくるわけだ。


「Sクラスまで行くと流石に今のゆーとさんでは厳しいでしょうけど、A位までならどうにでもなりますよ?」


彼女は何を基準に物を語っているのか、俺にはそれが理解できない。


「いや無理だろ。あんなのにどうやって勝てってんだよ?」


「等価交換を使えば良いじゃないですか?」


アホは放って置いて、俺は荷物を手早く片付ける。

勿論夜逃げの準備だ。


「って、何で無視するんですか!?」


「馬鹿なこと言ってるからだよ。裸に向いたって、基本性能差で圧倒されるわ」


「そんなの、スキルさえ封じちゃえばどうにでもなりますよ?」


「スキルぅ?そんなもんどうやって封じるってんだ?」


「だから等価交換を使うんですよ!ゆーとさんは馬鹿なんですか!?」


どうも、会話が噛み合っていない。

というか誰が馬鹿だ!


「馬鹿はお前だろう!等価交換でどうやってスキルを封じるってんだ!?」


「誰が馬鹿ですか!仮にも天使様に向かって失礼ですよ!謝ってください!」


「やだね!ウロンが出鱈目を言うから悪い!」


「出鱈目ですってぇ!?あたしが何の出鱈目を―――」


突如ウロンが言葉を途切れさせ。

それまでの怒りの表情が、急に勝ち誇ったかのようなムカつく顔へと歪む。


「はっはーん。さては勇人さん、気付いてないんですね」


「何をだよ?」


何故かウロンは俺の目線の位置から上へと上昇し、胸を張って俺を見下ろす。

体を大きく仰け反らし、高い位置から此方を見下す様は最高にムカつくポーズだ。

が、高い位置へと上昇したおかげでパンツが丸見えになっている。


――ウロン、お前の全てを許そう。


「やっだー。人の事馬鹿呼ばわりしておいて、気づいてないんですかー。結局勇人さんは、私がいないと何にも出来ないんですねぇ」


ウロンが何を言いたいのかは良くわからんが、パンツの色が白だという事だけはよく分かった。

個人的に熊さん柄はどうかとも思ったが、まあ良いだろう。


「もーしょうがないですねー。いいでしょう。無知蒙昧な愚民に、この天使様から英知を授けて差し上げましょう!」


天使のパンツが、白の熊さん柄であること以上の英知など有るのだろうか?


「いいですか?等価交換は物だけじゃなく、スキルにも有効なんですよ」


「へーそうなんだー…………え!?」


今なんつった?

パンツに集中しすぎてちゃんと聞いてなかったが、今スキルも交換できるって言った?


「だーかーらー、スキルも交換できるんですよ!」


どうやら聞き間違いじゃないようだ。

俺は慌てて目を閉じ、等価交換のスキルへと意識を集中させた。


――俺の脳内に、その説明が表示される


等価交換

同ランクの別種へと変換するスキル。


シンプル極まりない説明文だ。


最初此れを見た時、物しか交換できないのだと思い込んでいたが、確かに物品と限定されてはいない。


「え?本当に出来るの?スキルの変換って?」


「勿論です!スキルからスキルどころか!スキルからアイテムへの変換すら可能です!!」


え?なにそれ?

やりたい放題じゃねぇか?


ん?待てよ。

パッシブスキルって基本脳内や体内で発生するものだよな……


「なあ。パッシブスキルをアイテムに変えたら、それって相手の体の中に出てくるって事か?」


スキルを剣に変えた瞬間、相手の体の中から剣が突き出てくるグロいシーンを想像して、少し気持ち悪くなる。


「はははは、まっさかー!それが出来たら等価交換はDランク位には入ってますよぉ。パッシブ系のスキルを変換して物質に変えても、相手のすぐ傍に出てくるだけです」


即死魔法みたいに使う事は出来ない訳か。

ていうか、パッシブスキル持ちを強制的に昇天させるレベルのとんでもスキルでもDランクなんだな。

それ以上のランクには、いったいどんなスキルが入ってるんだ?


そういやSランクは天地創造なる、正真正銘やりたい放題系スキルだったか。

神の用意した転生ガチャスキル恐るべしだ。


「後、スキルに関しては1時間程度で元に戻りますから気を付けてください!」


永続的に奪う事は出来ないってわけか。

まあ1時間相手のスキルを封じるだけでも、結構な効果だとは思うが。


「ふふん!どうです!色々と勉強になったでしょう!だから謝ってください!!」


「あ、ああ悪かったよ。所でスキルには、どうやって使えばいいんだ?」


「簡単な事です!物と同じように対象を選択してスキルを使えばいいんです!人を対象にした場合は、その人の習得しているスキルとランクが見えるはずですよ!」


成程。

今まで物しかターゲットしてこなかったから、気づけなかったのか。

思い込みって怖いな。


「しかしそこまでできるんなら……結構当たりじゃないか、このスキル」


「だから最初に言ったじゃないですかぁ。ハズレの中の大当たりだって」


まあ確かに言ってはいたが、その説明で凄いスキルだと気づけと言われても無理があるんだが。……


ウロンが高い位置から、俺の目線まで降りて来る。

どうやらパンツタイムは此処までの様だ。

無念。


「で?どうやって手籠めにします?」


「だからしねーっての」


とは言え、逃げるのは止めだ。

スキルまで変換できるのなら、十分勝機はあるはず。

仮に負けても、護衛としての力を示す事位は出来るだろう。


俺は荷物整理を止め、明日の試合に向け作戦を練る。

100億を手に入れ、1分1秒でも早く魔王討伐どうていそつぎょうする為に。

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