第3話 出会い

俺は何としてでも、魔王を倒してウロンとHする。

それに比べれば、元の世界への期間なんてもはやオマケレベルだ。


――とは言え、俺が手にしたのはFランクのごみスキル。


普通にやったのでは、まず魔王を倒すのは不可能である。

そこで考えたのが、金の力を使う作戦だった。


金で優秀な人材を雇い。

更には金でかき集めたSランク品を片っ端から戦闘用の装備やアイテムへと変換し、雇った奴らを強化して魔王を討つという、至ってシンプルな作戦。


この作戦を決行する為、俺は今資金集めの真っ最中だった。


「とにかく、目立たないようにもうちょっと種銭を稼いで。それから変換効率のいい高ランク品にシフトしていくしかないな」


「やはり、地道な作業しかないですかねぇ。ほんと頑張ってくださいよ勇人さん。私だっていつまでも上に隠し通せる訳じゃないんですから」


「まあ頑張ってみ―――――」


「きゃああああああああ!!」


俺の言葉を遮って、絹を裂くような女性の悲鳴が近くの路地から聞こえてくる。


「何だ!?今の悲鳴!?」


「さあ?誰かが犬の糞でも踏んづけたんじゃないですか?」


「明かに、そういうちょっとした不快レベルの悲鳴じゃなかったんだが!?」


俺が悲鳴の聞こえた方へ向かおうとすると、ウロンが小さな体で両手を広げ通せんぼしてくる。


「君子危うきに近寄らずですよ、勇人さん。貴方には魔王討伐の使命があるんですから、余計な事に関わっている場合ではありません!」


開いた口が塞がらないとはこの事だ。

とてもではないが、天使のする発言とは到底思えない。


まあ言ってる事は確かにその通りなのだが、だからといって、女性の悲鳴を放っておける訳もない。

俺はウロンの忠告を無視する形で、路地へと駆けこむ。


路地の先は少し進むと行き止まりになっていて、その袋小路部分の一番奥に、ピンクのドレスを身に纏った金髪の女の子がしゃがみ込んでいた。

そして少女の前には、抜身の剣を手にした口元を黒い布で覆っている男が立っている。


今にも振り下ろされんとするその剣の動きを止める為、俺は大声で男の注意を引きつけた。


「おい!そこで何やってる!?」


男の動きが止まり、此方に振り返る。


「ちょ!?不味いですよ。こっちは丸腰なんですから。絶対やられちゃいます!早く逃げちゃってください!!」


「五月蠅い。ちょっと黙っててくれ」


策はある。

こういう不測の事態も考慮して一応自分でも戦えるよう、色々と考えておいたのだ。

何せここは魔王がいる様な異世界だからな。


「めっちゃこっち来てますよ!あの女の子は袋小路で逃げられないと踏んで、先に勇人さんを始末するつもりですよ!?」


「ちゃんと勝算はあるから。だから悪いんだけど、本気で黙っててくれ」


こういう荒事の実戦経験は皆無だ。

だから策があるとはいえ、物凄く緊張してる。

そんな状態で横でウロンに騒がれると、集中しきれずに失敗しそうで怖い。


「本当ですか。私の進退が掛かってるんですよ?嘘だったら承知しませんからね!」


一瞬視線を落とし、足元を確認する。

視線が外れた瞬間を絶好の機会と判断したのか、それまでにゆっくりとにじり寄って来た男が、一足飛びで間合いを詰め剣を俺に振り下ろす。


剣が俺を切り裂く!

よりも早く、相手の手にしていた剣が俺のスキルによって薬草へと変わる。


これで相手は武器を手にした危険人物から、薬草を振り回す危険人物へと早変わり!そして相手が怯んでいるこの隙に攻撃だ!


驚く相手の腹めがけて、俺は足を突き出す。

だが虚を突いた蹴りは、覆面の男が咄嗟に後ろに飛んだため手ごたえが薄い。


「ちっ!」


俺は舌打ちしながら先程確認していた足元に転がる大きめの石を拾い、相手の顔めがけて投げつけた。


あのタイミングの蹴りを躱すくらいだ。

俺の投げた石は間違いなく躱されるだろう。

だが何も問題ない。


何故なら、顔面にぶち当てるために石を投げたわけじゃないからだ!


俺はスキルを発動させる。

スキル等価交換!

石ころ―ランクZ(ごみ)――を砂粒――ランクZ(ごみ)――へと変換!


男が顔を傾け躱そうとする直前、石は砂粒へと変わる。

直後砂粒は風圧でばらばらと飛散し、大きく広がって男の視界を潰す。


俺は両手で目を押さえ、もがく男へと全力疾走。

そのまま全力で股間を蹴り上げてやる。


ふ、つまらぬ物を潰してしまったぜ。


「ぐがぁっ!」


「よし!上手くいった」


泡を吹いて倒れる男を見届けてから、俺は小さくガッツポーズする。

完全勝利だ。


「凄いじゃないですか!相手の得物をすり替えてからの目潰し!お見事です!」


その言い方だと、まるで褒められている気がしないのだが……

まあいいや。


「大丈夫か?」


俺は女の子に近づき声を掛ける。

遠くから見た時には気づかなかったが……かなり可愛いぞ、この子。


「貴方なかなかやりますわね。よろしい、貴方に私の騎士を務める栄誉を指しあげましょう」


彼女はそう言うと、シルクの手袋をはめた手を俺へとむける。


「は?騎士?」


言ってる意味が分からない。

どうやら暴漢に襲われた恐怖で、頭のネジが飛んでしまったようだ。

可哀そうに。


「何をしてらっしゃるの?早く手を取って起こしてくださらないかしら?」


「あ、ああ」


唖然としながらも、少女の手を掴み引き上げる。

だが彼女の体が思った以上に軽かった為、引っ張りすぎて俺とぶつかってしまう。


「キャッ!」


ぶつかった勢いで再び倒れそうになった彼女を、俺は咄嗟に抱き止めた。


ああ、良い臭いがするなぁ。

しかも胸元に、結構な柔らかいボリュームが……


直ぐに離れるべきなのだろうが、余りの心地よさについついそのまま抱きしめてしまう。

次の瞬間、彼女は俺を跳ね除け、真っ赤な顔で叫ぶ。


「な、な、な!?何をなさるのですか!!」


「あ。ご、ごめん。可愛かったんでつい」


本当は気持ちよかったからついなんだが、流石にそれを素直に言うのは憚られたので、咄嗟に嘘を吐いた。


「か、可愛いからって……抱きしめるなんて。そ、そんなの紳士ではありませんわ!」


別に俺は紳士ではない。

ついでに言うなら騎士でもない。

とは言え、やっていい事と悪い事の分別ぐらいは付くので、素直に頭を下げて謝る。


「ごめん!本当にごめん!」


「ま、まあ良いですわ。貴方には命を救ってもらった訳ですから。今の愚劣な振る舞いは、無かった事にして差し上げます。ただし次はありませんよ!!」


「ありがとう」


彼女の目を真っすぐ見て、許してくれたことに対して礼を言うが、目を逸らされてしまう。

まあ、あんなことした後じゃしょうがないか。


「助けたお礼に小銭をせびるより、惚れさせて長期的にお金を引き出す作戦とはやりますねぇ。流石勇人さん」


うん、そんな作戦は練ってないから。

しかしべらぼうに可愛いのに、ウロンは何でこんなに口が悪いのだろうか?

本当に残念でしょうがない。


「わたくしの名はアーリッテ・ベラドンナですわ。アーリィと呼んでくださって結構です」


「俺は高田勇人。勇人って呼んでくれたらいいよ」


「はいはーい!私はウロン・A・チャット!天使様って呼んでくれていいですよ!後!お金下さい!!」


何故か相手に聞こえもしないのに、ウロンが大声で挨拶する。

しかも人の耳元で。

お陰で耳がキーンとして仕方ない。


しかし欲望に忠実すぎだろう。

ウロンの言動を聞いてると、本当に天使かと疑いたくなってくる。


「では、わたくしを家までエスコートしていたでけるかしら。勇人」


そうアーリィは俺に告げると、ニッコリとほほ笑んだ。


「ああ、わかったよ」


こうして俺はアーリッテ・ベラドンナと運命の出会いを果たす。

そしてこの出会いが、俺の運命の歯車を加速していく。

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