第2話 女神

ランク――ガチャスキルである等価交換によって、この世界のありとあらゆる物がランク分けされる。


ランクは品質や効果、上位品の有無など総合的な観点から算出され。

S~Fランク。

これにZランク(ゴミ)を合わせた8つのランクに全てが区分けさる。


―――クレンモールの街―――


「はぁ、はぁ……ここまでくれば大丈夫だろう」


俺は立ち止まって荒くなってしまった息を整え、警邏隊員が追って来ていないか辺りを見回し確認する。


「どうやら、上手く撒けたみたいだな」


「良かったですね!危うく豚箱で一生を過ごす所でしたよ!!」


「いや、流石に門扉蹴ったくらいで無期懲役とかありえないだろう?」


目の前に突如現れた小さな妖精――30cm程度――サイズの天使の言葉に、俺は突っ込みを入れる。


彼女の名前は、ウロン・A・チャット。

俺をこの世界に誤爆した、美少女天使だ。

初対面の際は婦警の格好をしていたが、今は可愛らしい白のワンピースを身に着けており。背から生えた羽で、空中をパタパタと浮遊している。


因みにAは天使Angelの略らしい。

決して顔文字ではない。


「何言ってるんですか!ここは貴方の元居た世界ではないんですよ!欠伸しただけでけつを掘られる!そんなデンジャーな世界なんですから!」


「ああ、まあ気を付けるよ」


何をどうしたら欠伸からカマ堀に繋がるのか理解不能だが、そこは軽く受け流す。


「しかしあれですね。密造は今度からもっと慎重にやらないと。今回は事なきを得ましたが、次は確実に掘られてしまいますよ」


どうやら彼女の中では、危険=尻を掘られるという概念らしい。

まあ確かに危険だけども。


「密造って呼び方は止めてくれ。何だか俺が悪い事をしているみたいに聞こえるから」


「え!?自覚無かったんですか!?怪しい葉っぱに手を加えて売りさばくとか、完全に悪事じゃないですか!?」


「いや薬草――Fランク(80Gゴールド)――を等価交換で皮の鎧――Fランク(5000G)――に変換して売り飛ばしてるだけだからね?変な言い回しは止めてくれ。人が聞いたら誤解するだろ」


価格80Gの物が5000Gに早変わり。

一般的に見れば交換というより、もはや錬金術に近いだろう。

まあぶっちゃ、けこれはスキルの仕様を悪用してる様な物だから、俺は何一つ天に恥ずべき所は無いと。胸を張って言えるかと言えば微妙な所ではあるが。


「大丈夫ですよぉ。他の人には私見えていませんから」


ああ、そうだった。

彼女は天使だから俺以外には姿は見えないし、声も聞こえていない事を思い出す。


俺は辺りを見回し、人がいないかを確認する。

今の俺の姿を周りの人間が見たら、独り言をぶつぶつ呟く要注意人物でしかないからな。

通報されたら、また警邏隊にしょっ引かれてしまう。


「とにかく!今迄みたいに派手に売りさばいていたら、また通報されちゃいますから!これからは闇に潜って水面下で密売しましょう!!」


「その言い方、何とかならない?」


どうも彼女は悪いイメージ方向に言い回しする習性がある様だ。

初めて会った頃はテンションこそ高かったものの、ここまで口は悪くなかったのだが……まああの時は猫を被っていたという事だろう。


「無理です!これが私の持ち味ですから!!」


左様で。


まあ言い方は兎も角、確かに派手に売りさばくのは自重した方が良さそうではある。

今回警邏隊に身柄を押さえられたのも、質屋のおやじが通報したためだし。


まあ毎日何個も新品同然の鎧を売りに来たら、そら通報するわな。


「しかし今のままだと、魔王討伐の為の資金集めに何年かかるか分かったもんじゃありません。何とか一発、ドカンと当てたいところですね」


俺の今の目的、それは魔王討伐。

転生者は魔王を討伐する事で、元の世界へと帰還する権利を得る事が出来る。

これは手違いで転生させられた俺も同じで、俺が元の世界に戻る為には魔王を討伐する必要があった。


俺は魔王を倒して元の世界に戻る。

そして―――


「ちゃんとHしてくれるって約束、守ってくれるんだろうな?」


最終目標はずばり、ウロンとHする事だ。

俺は初めて会ったその時から、彼女に童貞を捧げると決めている。


「も、勿論です……勇人さんが戻ってきた暁には、ちゃんとHな事を……その……ちゃんとあれしますから」


さっきまでの勢いが吹き飛び、ウロンは途端に顔を赤らめもじもじしだす。


本来転生者が魔王を討伐して地球に帰ってきたからといって、天使とHな事など出来はしない。


――だが、俺はウロンのミスにより、生きたまま転生させられてしまっている。


全然関係ない人間を。

しかも生きている人間を転生させるなど、前代未聞の失態だそうだ。


それを有耶無耶にする為に、上にばれないように隠し。

ばれる前に俺を帰還させる事に、ウロンはやっきになっていた。

だから少しでも俺にやる気を起こさせるため、Hという餌をぶら下げて来たのだ。


「と、とにかくちゃんと約束は守りますから!勇人さんも頑張ってくださいよ!!私の進退が掛かってるんですから!!」


「分かってるって。言われなくたって、死ぬ気でやるさ」


本来なら、絶対に手の届かない惚れた女とHができる。

そんな餌をぶら下げられれば、此方も必死にならざるを得ない。


何せこちとら、非モテ童貞だからな。

好きな事のHの為なら、命だってかける。


え?

そんなにウロンの事が好きなのかだって?


ああ、好きだ。

胸を張ってそう言える。


勿論、ただの一目ぼれでそこまで思っている訳じゃない。

あの時、そうあの時、俺の中で彼女への気持ちが本物になったのだ。


ウロンと初めて会った日の事を思い出す。

あの日は本当に最悪な日だった。

いきなり異世界に飛ばされたあの日。


――俺は泣いていた。


見た事のない場所。

しかも言葉は通じない。


そんな状態でも、何とか意思疎通を図ろうと頑張ってボディーランゲージを試みるも、誰も相手にはしてくれず。

その内日も暮れだして、どんどん人影が減っていき、疲れ果てた俺は路地の片隅で蹲ってしまう。


自分はもうこのまま、こんな訳のわからない世界で死んでしまうんじゃないか?

そんな恐怖と不安に耐え切れず、俺は声を押し殺して涙を流す。


本当に怖かった。

怖くて怖くて、仕方なかった。

でもそんな俺をウロンが見つけてくれたのだ。


……あの時は、嬉しかったなぁ。


まあ全部ウロンのせいだった訳だが、そんな事気にならないぐらい、あの時の俺は嬉しかったんだ。

自分が一人じゃないって事が、本当に。


そしてあの日から、俺の中で彼女は特別な存在になった。

俺に希望の光を灯す、女神に。

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