転生ガチャはFランクの大外れ~あれ?これ本当にFランクなのか?生き物以外何でも交換できるんだけど?~ 神視点のFランクは人間にとってチート極まりないSSSランクでした
まんじ
転生
第1話 人違い
等価交換
それは価値の釣り合った物同士を交換する
―――――――開幕――――――――
「ふぅ、やっぱシャバの空気はうめぇぜ」
燦燦と輝く太陽の陽ざしに眩暈を覚えつつも、子供の頃憧れていた台詞を口にする。
「何訳の解らん事を言ってる?」
「あ、いえ何でもありません」
「俺達も忙しいんだからな。もう二度と紛らわしい真似はするなよ」
「あ、はい。それはもう勿論です」
顔に傷のある、厳つい男が俺を睨む。
その圧に気圧され、俺はついつい無意味にぺこぺこ頭を下げてしまう。
我ながら小市民だ。
「さっさと行け」
「お世話になりました!」
言われて小走り気味にその場を去る。
ここは警邏隊――軍と警察の機能を合わせたような物――駐屯所。
門を抜けて外に出た所で俺は舌打ちし、毒づく。
「ちっ。なーにが紛らわしい事をすんなだよ。勘違いで捕まえといて、偉そうに。そこはすみませんだろうが!」
苛立ち紛れに門を蹴り上げると、思っていたより大きな音が鳴り響く。
「こらー!貴様そこで何をしておるかー!」
「ひぃー!すいません!足が引っ掛かって躓いただけなんですぅ!!」
音を聞きつけた近くの警邏隊員が此方に駆け寄って来たので、俺は大声で言い訳してその場を全力疾走で離れた。
まったくついてねぇぜ。
異世界くんだりまできて、何で俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだ?
くっそー、Sとは言わねぇ。
せめてBかCが引けてりゃ、こんな情けない思いしなくて済んだってのによ。
俺は警邏隊員から逃走しながら、あの日の事を思い出す。
―――――あの日―――――
「おめでとうございます!!!!」
「ふぁっ!?」
家のベッドで気持ちよく眠っていたら、とんでもない大声で叩き起こされる。
急な不意打ちに、思わず口から俺の口から変な声が漏れでた。
「おめでとうございます!!!!」
再び大声が響く。
しかも耳元で。
余りの五月蠅さに、俺の頭がジンジンと痺れた。
「おめでとうございます!!!!」
「うるっせぇ!!耳元で怒鳴んな!!!」
三度振って来た大声に、俺は怒鳴り返した。
寝てる人間に大声かけるとか、ふざけた真似しやがって。
「あ!起きられましたね!おめでとうございます!!」
「だから五月蠅いって言ってんだろうが!!!」
体を起こし、声の方に視線をやる。
と、其処には見慣れぬ女が拡声器片手に立っていた。
その女は婦警の様な制服を着用していて、何故か背中に羽らしき物を背負っていた。
顔に見覚えは無いが、女の酔狂な格好から、直ぐに相手が何者かを察する。
「姉貴の友達か?朝っぱらから近所迷惑だから大声出すなよ。後、そのコスプレは頭おかしい人にしか見えないから止めといた方がいいぞ」
俺の姉貴はコスプレイヤーだ。
当然その友達もコスプレイヤー。
つまり、この珍妙な格好をしている女は姉貴の友達って事だ。
正に隙のしょうじぬ、完璧な三段論法。
「コスプレって何ですか?」
「はぁ?あんた姉貴のコスプレ仲間だろ?天然の振りはいいから、悪いんだけど部屋から出て行ってくれる?俺まだ眠いし」
手首を上下に振って出て行けのジェスチャーをした後、俺は布団に潜り込む。
「ぷっぷぷぷぷぷぷぷ。もう永遠の眠りに就いてるのに、そこからさらに眠るなんて。上手いですね!そのギャグ!」
「何言ってんだあんた?いいからさっさと部屋から出て行けよ」
「そういう訳には行きません!何故なら……私にはあなたを転生させる義務があるからです!!」
どうやら、コスプレしてるキャラの役になり切っている痛い女の様だ。
女とのやり取りで完全に目が覚めてしまった俺は起き上がり、女の顔を睨みつける。
………あれ?
やっべぇ!
滅茶苦茶かわいい!!
さっき見た時は寝ぼけ眼で気づかなかったが、よく見るととんでもない美少女だ。
クリっとした愛嬌のある大きな青い目。
可愛らしい鼻。
薄っすらとピンクに染まる唇。
柔らかそうな亜麻色の髪は首元で切り揃えられていて、超が付く程好みのタイプだった。
お近づきになりたい!!
アホみたいな恰好ではあるし、痛い女ではある。
が!
とにかく、今までの人生の中でダントツ一番レベルの可愛さだ。
少しぐらいおつむがあれでも、これだけ可愛いければ中味なんざ誤差である。
決めた!
俺はこの人に童貞を捧げる!
「初めまして!好きです!付き合ってください!!」
「ごめんなさい!顔が好みじゃありません!」
俺の渾身の告白は、ばっさり切り捨てられてしまう。
ぬぅぅ。
痛い所を付いてくる。
顔は俺にとっての唯一のウィークポイントだ。
これのせいで俺は16年間、女に無縁だった。
まあ別に不細工ではないのだが、兎に角花が無い。
所謂モブ顔って奴だ。
「男は顔じゃありません!ハートです!俺と付き合ってください!!」
「男も女も見た目が全てです!諦めてください!!」
諦めきれずにもう一度告白するが、再びばっさり切り捨てられる。
それも満面の笑顔で。
しかしそんな慈悲の欠片すら感じさせないその笑顔すら、俺の心を魅了してやまない。
正に彼女は小悪魔。
何とか気を引けないものだろうかと頭を捻っていると。
何処から取り出したのか、彼女は大きなスロットマシンを俺のベッド横のテーブルの上へと置く。
「それじゃあ、早速ガチャをしましょうか?」
「ガチャ?」
「そう!ガチャです!貴方の運命を決める、デスティニーガチャ!!」
本格的に何を言ってるのか分からない。
でも可愛いから許す。
「そのガチャをやったら、付き合ってくれますか?」
「顔が好みじゃないのでお付き合いできません!!」
駄目だった。
俺のチャレンジスピリットは無残に打ち砕かれてしまう。
「このレバーを引いたらガチャスタートです!さあどうぞ!」
両手を広げ、満面の笑みでレバーを引くよう勧めてくる。
正直何がしたいのかよく分からないが、少しでも彼女の気を引きたい一心で、俺はとりあえずレバーを引いてみた。
「おお!勢いよく回り始めましたよ!!さあ何が出るのでしょうか!?」
「これって、何が出るんですか?」
何故俺の部屋に単独で来てるのかは知らないが、姉貴の友達なら年上だろう。
そう思い、一応敬語に切り替える。
「勿論チートスキルです!貴方が転生先で困らないようにするための!!」
転生?
ああ、成程。
どうやら彼女はアニメなどでよくある、転生物の≪ゴッコ≫をしているわけか。
可愛いなぁ。
同じ事を不細工がやったら迷わず部屋から蹴りだす所だが、可愛いから全てが許せてしまう。
俺はキラキラした目でスロットを見つめる彼女の横顔を眺めながら、どうやったら仲良くなれるのかを思案する。
『女なんざ話を聞いて適当に相槌打ってれば楽勝』
そう言っていたクラスのイケメンの言葉を思い出す。
イケメンにのみ許された特権な気もするが、他に妙案も思い浮かばないのでとりあえず決行してみる事にする。
「チートって、どんなチートがあるんです?」
何を聞いたらいいの分からないので、とりあえず彼女がやってるごっこ関連について聞いてみた。
「このガチャにはですね!S~Fランク迄あって!Sランクに到っては、天地創造みたいなのが入っていたりするんです!!」
「天地創造?」
「天地創造はその名の通り、世界を作り出す力です!つまり神様になれるチートなんです!!」
正直テンションが無駄に高すぎてついて行けそうにないが、脱童貞を目指して俺は頑張る。
しかし、天地創造とかビックリする程頭の悪そうなスキルだ。
「凄いんですね」
「そうです!凄いんです!!」
彼女が胸を張って、どや顔を俺に見せつける。
以前クラスの女子がどうでもいい事でどや顔をして来た時は、殺意を押さえるので必死だったが、彼女がやるとそれすらも愛おしい。
やっぱ人間顔だわ。
「あ!ガチャが止まりますよ!ドキドキしますね!」
彼女の声でスロットに視線を戻すと、くるくる回っていた盤面が勢いを失っていき、やがてゆっくりと止まる。
絵柄は全部ばらばらだ。
チーンという軽い音と共に、紫色のカプセルが吐き出された。
「あー。役無しですねぇ。残念、Fランクです」
彼女の声のトーンが明らかに下がった事で、ハズレだという事が伝わってきた。
まあしょせんゴッコだし、ハズレでも別に良いけどな。
「ま、まあFランクでもないよりましでしょうから。さ、どうぞ開けてください」
「はぁ」
促されるまま紫のボールを手に取り、両手に力を入れて捻り開ける。
中からカプセルと同じ色の紫の札が出て来た。
「えーとなになに、等価交換?」
「おおおおおおお!!当たりじゃないですか!!」
「当たりなんですか?」
「はい!大外れの中の大当たりです!!」
ハズレなのか当たりなのかどっちだ?
「Fランクと言えば使えないゴミだらけの中!唯一辛うじて使えるレベルの大当たりです!」
世間一般では、それも十分ハズレに分類されると思うんだが?
まあしょせんごっこだ。
余計な突っ込みは控えておこう。
これから愛し合う二人に、無粋な真似は不要。
「それじゃあ今から異世界に
彼女がそう叫ぶと、急に俺の周りをキラキラ輝く無数の光の粒が取り囲んだ。
まるで夜空に浮かぶ蛍の群れの様なそれは、輝きを増しながら俺の周りをくるくると回りだす。
「ふぁっ?えっ!?」
意味不明な状況に、ビックリして焦る俺。
だがそんな事などお構いなしにその回転は少しづつ間隔を狭め、最後には全ての光が俺の中へと入り込んで来た。
途端、両手が輝く。
いや、両手だけじゃない。
視線を動かすと、体、足、全身の至る所が輝いている。
「ちょ!?なんなだよこれ!?」
余りに非現実的な出来事に、思わず声を張り上げた。
そんな混乱極まる俺に、目の前の美少女は親指を立ててこう告げる。
「転生魔法です!貴方はこれから第2の人生を異世界で送るんです!!山田隆さん!!」
「俺……高田勇人だけど?」
「え!?」
俺は山田隆なんて名ではなく、高田勇人だ。
それを告げると、彼女の表情が『ガチリ』と音が聞こえてきそうな程にあからさまに固まってしまう。
「それで、あの……これは……」
とにかく何が起こっているのか知りたくて尋ねようとするが……
体から力が抜け。
舌が上手く回らない。
視界もぼやけて来た……
「ま……まちがったああああああああああああああああああ!!」
目の前の美少女の絶叫を揺り篭に、俺の意識は闇の中へと溶け込んでいった。
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