第46話

ジバから連邦議会の提唱する従属制について聞いた王は考える。

この提案は我が国において益となるのかを。


連邦会議で採択された制度だというが、実際にはジバが異世界で学んできた知識だということはこの度の面談でよく分かった。


事実としてこの世界にも大陸のほとんどを支配する巨大な帝国がかつてあったと記されているからだ。


そしてその歴史書には帝国の興亡が記されていた。


強大な武力を持つひとりの男が、圧政に苦しむ人々を糾合して小国を興す。


やがて近隣諸国を従えて巨大化していったその国は、男を頂点とした巨大帝国を造るのだ。


だが、急ぎ過ぎる糾合や侵略は様々な軋轢を生み、数10年後、男の死とともに帝国はあっけなく瓦解するのであった。


「強大過ぎる力を持った男...か」


王は考える。その男とジバは似ているのではないかと。


まだ20歳にもならない王子でありながら、圧倒的な知識と武力によって、全ての問題を解決してしまう怪物。


帝国を興した男との違いは、武力による統合では無いことだろうか?


いや、単身で古竜を斃し、クーデターを制圧、数10匹の竜を一瞬で蹴散らしてしまう武力を見せられては、力で制圧されたと言っても過言ではないかもしれない。


では同じか?


彼は我によどみなく説明してくれた。

彼が学んできた異世界で起こった様々な国の興亡の話を。


そして、そうならないためにはどうすればよいのか?


男とジバの違いは、巨大な国を興した後についてよく考えて施策をとれるかどうか、それなのではないか。



王は考える。


そして、判断を下す。それほど時間は必要なかった。


翌日、王はジバに自国を連邦国家の従属制に参加させる旨を伝えたのだった。








「なに!連邦国家に従属だと!それはあのジバに国を売り渡すということか!!

しかも国軍も連邦軍に編入させるとは!王は何を考えておるのじゃ!!


わしはそんなこと絶対に認めんぞ!!王の乱心じゃ!すぐに王位を第2王子に!!」



「いや次は第3王子に決まっておろう!!あんな愚昧に何が出来る!!」


「いや、第4皇子が継ぐのだ!!我は大公だぞ!!我の孫に決まっておるぞ!!」



連邦国家に従属するための手続きを終えた王が自国に戻ると、王宮は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


いや、正確には一部の皇族に連なる者達が騒いでいるというのが事実なのではあるが。


王を出迎えた宰相はその様子を涼やかな顔で見ていた。


事前に通信の魔道具を通して王とは擦り合わせを行い、粛清の準備を整えてある。

以前から洗い出しは終えていたのだが、きっかけがなかったのだ。

下手に動かれてしまうと国が割れる可能性もあった。


連絡を受けた宰相の動きは迅速であった。


大公の息のかかった国軍のトップをすぐに更迭し、王に忠誠を誓っている後宮騎士団長をそのポジションにつかせると、そのまま遠征と称して連邦軍に送り出す。


そして王都騎士団に王都の警備を強化させてから、各部署へこの度の王の決定事項を通知したのだった。


突然の通知に驚いて集まり大声でわめいている国の重鎮らが言い争いをしている最中に王が帰還する。


「うるさい!!ここは王城であるぞ!!静まらぬか!!」


「おお!王よ!!お前は錯乱したのか!!我に相談もせず何を勝手なことを!!」


「叔父上!王は儂じゃ!!なぜあなたに相談する必要がある!!」


「「「.......」」」


王の姿を見て文句を言ってやろうと集まってきた連中が王を取り囲む中、王は毅然とした態度で一喝する。


「あなた達がいる限りこの国は良くならない!一度連邦国家に運営を渡し正常な国家運営が適うように導いていく事にした!


よって第1王子以外は王位継承権を剥奪し、それぞれの生母と共に実家に戻ってもらう。


第1王子には王位を譲り、連合議会議員としてアウストラ王国に常駐してもらう。


しばらくの内政の混乱は儂が新王に代わってみることとする!


それとここに居られる重鎮の面々、今までご苦労であった。この場で隠居を申し付ける!」



王のあまりにも唐突であり得ない宣言に、一同唖然とする。


そして言葉もないその場に、宰相の指示を受けた政務官達が走り回って、新王の戴冠と新しい国に向けての準備を急ピッチで進めるのであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る