第45話

スミセス殿からの手紙にはこう綴られていた。


『貴国の問題点を解決するための案があります。


是非ジバ様とお話しくださることをお勧め致します。』


后妃達の一族等の醜い権力争いと、それに否応なしに巻き込まれては不遇をかこつ民達。


王という最高権力者でありながら、見て見ぬ振りしか出来なかった儂。


英雄ジバ殿を利用するようで気が引けなくも無いのだが、スミセス殿からの手紙には現状打開するための光明が見えた心地であったのだ。


すぐに返信を認め、その数週間後にはアウストラ王国にある連邦軍の訓練を視察していた。





「ジバ殿、この国の従属案というのをもう少し細かく説明頂けないだろうか?」


「分かりました。ご存じの通り、連邦国家の根底にあるのはこの世界の民全てに安寧を与え、来るべき邪神の復活を阻止することにあります。


幸いにも大陸全土にある64ヶ全ての国々の賛同を得て、この難事業に対して足並みを揃えることが出来るようになりそうなところまで来ております。


ですが、実際にはここからが大変なのです。」


「と仰いますと?」


「はい、わたしが見てきた異世界にもかつて巨大な連邦国家を築いた国がいくつもありました。


それは議会制や帝政、共和制、社会主義等様々な政治形態で構成されていましたが、いづれも破綻しております。


なぜならば...」


「..なぜ...」


ゴクンと唾を飲み込む音がする。


「いくつかの原因がありますが、大きくは民族性を無視した政治体制と独裁者の誕生です。


連邦国家の場合、どうしても議会の決定を各国に押し付ける形になってしまいがちです。


そしてその決定の中には、連邦国家に属する多様な国の歴史的背景や民族的なものにより、その決定に構成国によっては大きな拒否反応を起こすものがあります。


長く連邦国家体制が続くと、連邦議会の運営を重要視するようになり、それらの拒否反応を無視し出すことが多くなります」


「国が大きくなれば多様な少数意見が犠牲になることは仕方の無いことではないのだろうか?」


「仰る通りです。人は自らの立ち位置を忘れ、自分に効率の良い選択肢を選ぶようになる生き物です。


今はそれぞれの国の背景をよく認識し各国の利益を尊重しながら議論を重ねている連邦議会ですが、何代かの議員の交代により、いづれ連邦議会を運営することを主体とするようなメンバーに入れ替わっていく事で、各国の立場に立って議論を重ねることが少なくなっていくのです...」


「そうなった時に、多様な少数意見から切られていくということですな」


「その通りです。そしてそれは小さな不満として燻り続け、最悪はクーデターという形で戦乱を起こします。


最初は小さな火でも、あちこちに燻る火が徐々に大きく燃えだして、収拾がつかなくなるほどの大火となるのです。


そして、そういった場合に必ず存在するのが独裁者です。


連邦議会の決定事項が連邦国家全体の動きとなってしまった場合、連邦議会内の利権を奪い合う権力争いが起こり、そして最終的に独裁者が誕生してしまいます。


彼は連邦議会を恐怖で我が物とし、己の利権を行使するために各国を無視するようになるでしょう」


「.....恐ろしい話しだが、これまでのような国家間の武力衝突がないまま大陸全土が支配されるということか.....」


「そうです。これはわたしが異世界で学んできた知識です。過去何千年という長い期間に何度もそういった歴史が繰り返されていました。


そうならないために...」


「そうならないために?」


「そうならないために、わたしが考えた案がこれです」


ジバが王に差し出した紙にはいくつかの項目が書き出されていた。


1.各国の自主性は決して損なわない。


2.連邦会議には各国の王が参加し、その決定事項には極力従うが、その際に民族性や民衆の考え方を十分に考慮した形で自国に適した運営方法を選択する


3.各国に軍隊を置かない。連邦軍としてまとめて、何らかの有事の際は連邦軍が解決に当たる。


4.連邦軍は連邦議会の決定でのみ動く。また連邦軍の指揮官は定期的に交代させ軍閥を作らせない。


5.連邦議会議長もしかり。各国の王から推薦された第三者により期限付きで任命されるものとする。



「これでもまだ問題は出るでしょう。しかし、少なくとも邪神復活と言われる後45年間は体制を維持できると考えています。


そして今回の従属制というのは、この5項目を実現するための足掛かりとなるものなのです」

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