第43話

「ジバ様、この度のフレシオ王国の件、やはり邪神の影響によるものでしょうか?」


フレシオ王国での竜退治を終えて帰還したジバを迎えてくれたのは、スミセスや連邦議会のメンバーであった。


一同の顔には一様に緊張と高揚が入り交じった色が浮かんでいる。


そしてスミセスがジバに投げ掛けた質問は誰もが答えを待ち侘びるものであった。


「スミセス、今回の竜による襲撃が邪神に起因するものかどうかは俺にもわからない。


だが、今後、他の国でも同様のことが起こらないとは言えないだろうな」


数十匹にも及ぶ竜の襲撃など、未曾有の厄災でしかない。 


絶対王者である竜にとって、他の生き物などとるに足らない些末な存在である。


故に、あちらから攻撃してくることなど常識ではありえないのだ。


我々人間が、蟻の巣を見つけたからといって、わざわざ壊さないのと同じことである。


ましてそれが孤高の存在であるはずの竜数十匹による襲撃である。


馬鹿げていると言われようが、邪神による意図的な攻撃と考えざるを得ないだろう。


何にせよ、この度の厄災は連邦議会を構成する若き外交官達にとっては身を引き締めるには十分過ぎる事件であったのだ。


「ジバ様のお陰で、我が国は救われました。


ありがとうございます。


そして連邦議会に集う皆さん、皆さんの国のご助力により、フレシオは早期の回復を実現出来るでしょう。


王に成り代わり感謝の辞を述べさせて頂きたい」


フレシオ王国の外交官でもある第2王子のヤコブが頭を下げる。


フレシオ王国の惨状については、各国の王と外交官に配られている連絡用魔導具により、共有されていた。


特に今回の場合、連邦議会内に設置された情報統制室による同報発信が機能した初めての事例となる。


情報統制室とは、地球で言うところの公共放送局に当たるところである。


連邦議会の決定事項を各国に同時に同じ内容を通知することが本来の目的であるのだが、同時に各国が発信したい情報を精査し連邦国家に属する全ての国々に通知する機能も持っている。


今回はジバから続々と流れてくるリアルタイムな竜討伐状況やフレシオ王国が必要な救援物資の通知、各国による救援活動報告などが、この情報統制室を通じて速やかに流された。


これにより、本当に必要な援助物資が必要なだけ送られ、他国による迅速で的確な救援活動が行われたのだ。


本来であれば、壊滅状態にあるはずのフレシオ王国で、飢えや寒さに苦しむはずの国民の多くが救われたのである。






「ジバ様、如何でした?」


「ソフィア嬢、驚いたよ。

俺の想定以上の大活躍だ。

ありがとう。」


ジバの帰還後、速やかに開かれた緊急連邦議会の後、ジバはソフィアとお茶を楽しみながらひと息ついていた。


「ソフィア嬢があれほど的確に情報発信出来るとは、正直思っていなかったよ」


「まぁ、失礼なことですわ。


緊張していたのは確かですわ。

それでも気持ちの高揚が勝ったのでしょう、自分でも意識していないほど発信を続けられましたわ」


今回のフレシオ王国竜襲撃事件に関する報道を情報統制室から流し続けてくれていたのは、何を隠そうソフィア嬢であった。


「でも、ジバ様から最初お話しを伺った時はどうしょうかと思いましたわ。


だって、竜討伐の実況中継をやれなんて。


こんなお役目、恐らくこの世界では初めての事じゃ無いかしら」


ジバはフレシオ王国に向かう前に、ソフィア嬢にある任務を与えていたのだ。


それがジバが伝える竜退治の状況を、リアルタイム実況することである。


そして、ソフィア嬢により全国の王に発信された実況中継は、予想以上の効果を齎したのである。


ジバが目指したのは、ラジオのプロ野球中継の様な臨場感のある配信であった。


それがどのようなものであるかは、事前にソフィア嬢には話してあったのだが、この世界にはそんなものは無いため、どの程度伝わっているのかは不明だった。


しかし、ソフィア嬢は期待以上の成果を挙げてくれた。


ジバが刻々と伝える竜退治の状況を、あたかも吟遊詩人がその場に居るかのように流し、放送を聞いている者は手に汗を握りながら、状況を把握する。


そして、王宮に入ったジバがフレシオ王や宰相から聞き伝えてくる必要な援助内容を各国に割り振りながら的確に伝えてくれた。


それにより、迅速かつ的確な救援活動が実現出来たわけだ。


「いや、本当にソフィア嬢のお手柄だよ。


ありがとう」


「はいっ!ジバ様のお役に立てて良かったですわ。


ではご褒美に何をねだろうかしら。


とりあえず、新しく出来たケーキ屋さんに行きたいですわ」


「姫、お供させて頂きます」


「「ハハハハハハ!」」


アウストラ王国王都の片隅、午後のひとときを楽しむふたりの姿があった。


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