第42話
フレシオ王国の国境を越えたのは出発して8時間後のことである。
早馬で2日掛かる距離を僅か8時間で走り抜いたことになる。
国境のある峠からはフレシオ王国の全体が見渡せた。
ほぼ中央に位置する王都上空には飛竜の姿が10ほど見える。
王都からはいくつも火の手が上がり、真っ黒な煙が幾筋も立ち上っていた。
地上には地竜が20程か。
フレシオ国軍が奮戦しているのだろう、幸いなことに門は破られていない。
だが時間の問題だろう。
国宝指定されているマジックバックからジバが取り出したのは長さ3メートルはあろうかという鉄の棒。
先だけが鋭利に尖っている。
「ふん!!」
赤兎馬に跨ったまま、その鉄の棒をやり投げのように投げる。
まっすぐに標的に向かうそれは、1体の飛竜の身体を貫き、その身体ごと王都を大きく越えて視界から消えた。
「さあ来い!」
圧倒的な戦力で国を滅ぼそうとしていた邪悪の一団は、あり得ない光景に一瞬戸惑うも、すぐにその血走った眼をシバに向ける。
そして物凄い勢いで残った飛竜達がジバに襲い掛かってくる。
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
一体何本入っているのか、マジックバッグから次々と鉄棒を取り出しては、向かってくる飛竜に向かって投げつけるジバ。
「赤兎馬、駆けるぞ!」「ひひーーん!」
合計5体斃したところで、飛竜がジバの所に追いついてきた。
マジックバッグから青龍偃月刀を取り出して切りつける。
もちろん得物の長さだけでは飛竜の巨体を切り飛ばすことは叶わないが、ジバが使う青龍偃月刀は風圧だけでも圧倒的な切れ味を誇るため、切りつけられた飛竜は真っ二つに分かれてしまった。
あと4体。
灼熱の炎がジバを襲う。
その炎ごと、飛竜を両断。あと3体。
残る3体から同時に炎が吐き出されるが、赤兎馬の軽やかなステップで全てを避けたジバは、赤兎馬の上に立ち、そのまま1体の飛竜に飛び掛かる。
慌てて回避しようとする飛竜の上に飛び乗ったジバはそのままそいつの首を落とす。
そして落下する前に再びジャンプし別の1体の首も落とした。
残るは1体。
既に戦意を失い逃げようと急ぐ飛竜を鉄の棒で串刺し、急いで地竜討伐へと向かった。
「ジバ殿、助かりましたぞ。まさか連絡してからあの時間で来ていただけるとは。
お陰で我が国は焦土と化して無になるのを避けられましたぞ。」
「フレシオ王、この度は災難でした。間もなく近隣の国々から軍隊と救援物資が届けられると思います。
復興に向けて頑張りましょう」
「おお、有難いことですぞ。我が国はこうして酷い目に遭いましたが、連邦国家に参画したことで、復興に期待が持てることを喜ばしく思いますぞ。
よろしくお願いいたしますぞ」
大半が焼け落ちた王城の一角。奇跡的に残った王宮の一室でフレシオ王はじめ国の重鎮達が、次々にジバに礼を述べていく。
今の彼等にとってジバの存在は神にも匹敵するであろう。
あれほど国を焼かれても、なんら手を打てなかった飛竜どもを圧倒的な力で斃し、国軍が満身創痍で戦い、それでも城門を突破させないことが精一杯だった地竜の群れを蹴散らした勇者を目の前にしているのだ。
そして噂には聞いていたアウストラ王国の奇跡を目の当たりにした今、ジバが神の使徒だということを誰も疑わないに違いなかった。
一夜明けて、各国の復旧部隊が続々と入城してきた。
昨日のうちに各国の王には厄災の退治は報告済である。
よって、復興支援部隊を中心とした協力隊が続々と集結してきたわけだ。
もちろん連絡時点で既に兵を派遣している国もあったが、彼等には治安維持の警護に当たってもらうことにした。
各国の王は思う。
この度のフレシオ王国の厄災は決して他人事ではないと。
そしてこれが邪神に係わるものなのだと改めて知ることとになった。
同時に、自らの国にとって連邦国家という存在がどれほど有難いものかを思い知るのだ。
自らの国の利益のみを考えて連邦国家に参加していた国が考えを改めるには十分すぎる事件であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます