第40話

「やっぱり俺も連邦議会に参加すべきだったな。


ギランシア帝国はソフィア姫が参加しているというではないか!」


アズバン王国王宮にいるラファエル第一王子である。


「そう言われましても、王子は王太子なのですから。


あちらに常駐は無理があります」


「しかし、外交官の話しでは、ソフィア姫はすっかりジバ王子と仲良くなり、側近のように議会の中心にいるそうじゃないか!


羨ましいかぎりだ」


「我が国の外交官スベルスも頑張っておりますぞ。


大国アズバンの代表としてしっかりとした発言権を確保しております」


「それはそうだが……


だが、俺もジバ王子が異世界の知識をもって創った豊かな世界をこの目で見たいんだよ」


「ゴホン。経済協力うんぬんと言って、行く必要もないのに王宮を抜け出し、あちらに行っておられたのを存じておりますが、如何ですかな」


「…そ、それは、…そ、そうだ!あちらの責任者のスミセスがどうしても来てくれと言うものだからだな…」


「そのスミセス殿からわたしの方に相談があったのですがね」


「…………」


「ラファエル様、我が国に有益な情報はかなり入手出来ております。


まずはその範囲で、国内の生産能力を高めてみられては如何かと。


国内で王子の力量を見せつけるチャンスかと愚考いたしますが。


それに今後ソフィア姫が得られる情報は、スベルスが持ち帰るでしょう。


情報量にさして差もありますまい。


それよりも、国内で改革を実行して成果を出すことで、アズバン王国にラファエル王子ありと見せつけましょうぞ」


「おっ、そ、そうだな!

さすがは我が師、そうしよう!


で、何から手をつけようか?」


「………………」



アズバン王国ラファエル王子。


ヤル気満々だが、前途多難なようである。











話しは大きく遡って、こちらはアウストラ王国に支援を求めたばかりのサーダン国。


人が生きるために必須の塩。


これまでは海の無いサーダンでは産出出来ず、高価な輸入品に頼るしか無かった。


さんざん足下をみられた価格は高騰の一途で、サーダンの財政と国民の生活を圧迫していたのである。


それがジバがサーダンの地に足を踏み入れて僅かの期間で一変する。


なんと、不毛の山肌で大量の岩塩が採掘されたのだ。


岩肌を2メートルほど掘り進めるだけで見付かった巨大な岩塩の層。


非常に純度が高く、細かく砕いただけでも、そのまま市井に届けることが出来るレベルである。


ジバの指導もあり、王家の専売制となったそれは、秘密裏に採掘されることとなる。


一方で、ワイダーは岩塩が埋まっていそうな山を調査し始める。


幸いなことに、塩害の知識が無く、草も生えない不毛の地は、そのほとんどが国有地として管理されていた。


残った私有地についても、スムーズに王家による買上げが進み、1ヶ月経たないうちに国内全ての岩塩を王家が管理していた。


他国の塩商人はもとより、国内の貴族、商人が全く気付かないうちに、王家は岩塩を独占することが叶ったわけである。


そして満を持してサーダンの塩は国内隅々にある市場に一斉に出回ったのだ。


国外の商人が持ち込む法外で純度の低い塩では無く、安くて純度の高い塩が出回ることで、市井は一気に景気付く。


同時に塩の専売制も公布された。


これにより塩が安定した価格で国内における流通が可能となったのだ。


他国の塩商人とあくどく儲けていた貴族や商人からの猛烈な反発があったが、それは王家にとって予測済の事態である。


これまでの悪事は全て調べ上げられており、法に則った制裁が加えられたことは言うまでもあるまい。


元々小国で資源の少ないサーダンにとって、塩の安定供給は一気に経済を立て直した。


これまで塩を買うために必要であった富が爆発的に市場に流れたのだ。


そしてジバは別の知恵も授けた。


近隣国への塩の卸しである。


サーダン国周辺には規模や内政がよく似た小国が乱立していた。


そしてそれらの国々も悪徳な塩商人に苦しめられていたのである。


それらの国に専売制となった塩を安く売ることで、近隣諸国との連携を高めようとしたのだ。


これは大きな効果を生み出し、軍事同盟や自由貿易に関する協定が結ばれ、連邦国家への加盟が加速されたことへの一因となったのだった。



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