第39話

連邦議会で、ソフィア嬢においしいところを持っていかれた翌日。


俺とソフィア嬢は、アウストラ王国の王都にある商店街を散策していた。


昨日の会議で頑張ったご褒美として1日付き合うことをねだられたのだ。


まぁ俺としてもひと息付きたかったし、久しぶりに市井の様子を見たかったこともある。


好景気に湧くここ王都には、各国の有名店が我先にと進出してきており、スタンピード以前よりも賑やかになっているそうだ。


当時俺はまだ小さかったからよく知らないが、スミセスに言わせると金銭の流通量は当時の倍近いのではないかと言うくらいだ。


高級な商品を売る店と、それを買えるだけの裕福さを持つ民達。


特にジャメール公爵による内乱未遂の後は、特に賑やかになっているそうだな。


恐らく、ジャメール公爵派の貴族に抑圧されていたものが開放されたのかもしれない。


「ジバ様、あれ食べましょ」


ソフィア嬢に手を引かれて向かった先は、アルカイド領のアンテナショップであった。


熱した石に包まれたアルカイド芋の甘い香りにソフィア嬢のみならず、女性達が引き寄せられている。


まるで蜜に群がるカブトムシのようだなとほくそ笑む。


「あっ、ジバ様。

よくお越し下さいました。


ちょうど今焼けたところなんです」


大きく手を振っているのは、ヘルシーだ。


彼女は今、アルカイド領での経験を踏まえて、他の領地にも特産物を創り出す手伝いをしてくれている。


既にいくつもの領地に繁栄を齎しており、王城ではスミセス2世とも呼ばれているようだ。



「ジバ王子、ご無沙汰しております」


落ち着いた佇まいを見せてくれているのは、すっかりアルカイド男爵として威厳を備えたユリア嬢だ。


ユリアとヘルシーは見つめ合い微笑んでいる。


上手くいっているようで何よりだ。


「アルカイド男爵、こちらはギランシア帝国のソフィア姫だ。


芋を一本分けてもらえるか」


「はい、こちらをどうぞ。


初めましてソフィア姫様。


わたしはアルカイド領の代官を仰せつかっておりますユリアと申します。


お見知り置きを」


「あなたがあの有名なユリア様ですの!


とすると、そちらがアウストラ王国の各領を発展させているというヘルシオーネ様ね。」


「姫様、わたし達のことをご存知頂いておりましたのでしょうか?」


「ええ、おふたりは我が国でも有名人ですの。


スミセス様と共にジバ様の3使徒と呼ばれておりますの。ふふふっ」


「まぁ、そんな大それた肩書きを頂きまして、お恥ずかしいかぎりですわ」


笑い合う3人を見ながら、ヘルシーから渡された大きなアルカイド芋を2つに分けて片方をソフィア嬢に渡す。


「ジバ様、ありがとうございます。


ほふ、ほふ、まぁ!甘くて美味しいですわ!


やっぱり本場のアルカイド芋は最高ですの!」


「ソフィア姫様、中にもアルカイド領の特産品がたくさんございます。


是非ご覧頂けましたら」


「ええ、それは楽しみですの。


ねぇジバ様、見せて頂いても構わないかしら」


「ええ、構いませんよ。

是非ご覧下さい。


さぁどうぞ」


ねだるように俺の腕に手を絡ませて来るので、そのままエスコートして店内へと誘うのだった。


お土産にとユリアが手渡した黒サンゴのペンダントを大事そうに抱えて、満面の笑みで、ユリア達に手を振るソフィア嬢。


喜んでもらえて何よりである。


こんな些細な幸せの積み重ねが、民の安寧に繋がり、しいては邪神復活を防止することに繋がるのだろうと思う。


そうなのだ、特別な力など必要無い。


連邦国家として、より良い政治を続けることが大切なのだと改めて思うジバであった。



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