第37話
シルベスト王国とアウストラ王国の両国で同時に起こった大規模粛清は全世界に大きな衝撃を与えた。
そして、それらにジバが関与していたことは、決して明かされることは無かったはずなのだが、アウストラ王国の動向に注視している各国にとっては公然の事実として知れ渡っていた。
以降、日和見を決め込んでいた国のほとんどが連邦国家への参加を次々と表明していくことになる。
そして、最後の64ヶ国目の小国が参加を表明したことで、この世界の国が連邦国家の名の下、1つにまとまることになったのだ。
「これで最後だな」
「そうですね。ワイダー大臣、お疲れ様でした。
ここからが本番ですね」
「そうだな。スミセスの言う通りだ。
そうだ、大変なのはこれからだな」
自治大臣のワイダーがスミセスと連邦国家の実務を司る事務局庁舎の会議室で話していた。
アウストラ王国内にあるこの庁舎には、参加64ヶ国から派遣された外交官が常駐しており、政治、経済、領土問題など、大小様々な紛争のみならず、交易に関する取り決めや文化交流に至るまで、あらゆる議論や調整が行われている。
初代連邦議会議長にはジバが選出され、ワイダーとスミセスもアドバイザーとして、半常駐状態となっているのだ。
毎日様々な議題が処理され、スピーディに決定されていく為、各国からの外交官の責務は大きい。
そのため、ほとんどの外交官が王族のそれも次世代を担うだけの権力と教養、そして責任感を持った若者が集められていた。
もちろん、優秀な若手が集まったからと言って、問題が容易く解決するわけも無い。
だが、ジバの持つ膨大な異世界の知識の元、それを受け入れられるだけの柔軟性と実行力を持つことが彼ら若者の能力なのかもしれない。
国においては、派閥や老害に自らの持論を遮られてしまう彼らも、国王から各国を背負って立つ者として全権を持って臨めるこの場所は、何よりも得難い空間であり、共に議論を交わせる仲間との邂逅は彼らにとっては何事にも代え難い財産になるはずである。
もちろん、全てが彼らの思い通りになるはずも無いのだが、お互いの国の事情を語り合いながら、新しい視点に立って落とし所を探したり、国に戻って決裁を仰ぐ場合にも、俯瞰的に国内の勢力関係を見て調整を行う術を身に着けるなど、彼らの目まぐるしく成長は各国王を喜ばせているだろう。
こうしてこの世界エルザイムにおける新たな時代が幕開けたのだった。
「ジバ様、とうとうジバ様の理想とされていた連邦国家が誕生しましたね。
この2年間ご苦労様でした」
「なに、スミセス。お前達の力があったればこそだ。
良くぞ頑張ってくれたな。感謝している」
「勿体ないお言葉。ありがとうございます」
連邦国家として大陸中の64ヶ国がまとまるまで、おおよそ2年の月日を要した。
いや2年で全ての国が連邦国家としてまとまったこと自体が奇跡のようなものではあったのだが。
ジバは思う。これからが本当の始まりなのだと。
10歳の時に毒を盛られて昏睡していたあの1年間の間、ジバは異世界で裕也として過ごした記憶を持っている。
裕也として学んだ数千年に渡る様々な国の興亡の歴史は、この世界を平和に導き邪神の復活を阻止しようとするジバにとって、最も必要で貴重な知識であったのだ。
その後、2度の昏睡の中で学んだ様々な技術はそれを実現するために大いに役立ってくれるだろう。
事実アウストラ王国での数々の成功がそれを肯定している。
そして、この2年間で、既にその恩恵を享受している国も確かに存在するのだから。
残念ながら裕也の世界においても、戦乱の無い時代は無かった。
絶えず国同士は争い、貧富の差は起こる。そしてその貧富の差が新たな争いを生むのだ。
あれほど優れた文明でも争いは無くならなかった。
そして争いの中で文明が発展していったのも、事実である。
南米で豊かな文明を築いていた文明が、たった数100人の異文明人によって滅ぼされたことがあった。
閉鎖された限られた地域で大きな争いも無く作り上げられたその文明は、争いの中で醸造された異文明と対峙するには、あまりにもお粗末であったのだ。
巨大な連邦国家を形成した地域もあった。
だが、力を持ちすぎた指導者の暴走で絶えず内乱と粛清を繰り返し、最終的には自壊していった。
強大な武力で蹂躙し、巨大な帝国を築いた国もあった。
だが、急激な変化と広大な支配地の全てには治世が及ばず、中央の腐敗と共に朽ちていく。
栄枯盛衰
この世界エルザイムに永遠なる平和を齎すことは難しいだろう。
だが、それに向かって進み続けることは出来るはずだ。その盤石な地盤を作ることこそが、俺が神から与えられた使命なのであろう。
スミセスと共にワイングラスを持って月を眺めるジバは、自らの目的と方向性を再確認して、次の一歩を踏み出す決意をするのであった。
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