第36話

サリューとジバがヤリス王の前に現れた頃、今回のクーデターの首謀者であるアリスト侯爵の屋敷には、近衛騎士団長のキッシンジャーが僅かばかりの兵士を引き連れて乗り込んでいた。


「どこだー!どこにいる!

アリスト!出て来い!」


大声で立ちはだかって来る護衛騎士達を薙ぎ倒しながらに、アリスト侯爵を探してまわるキッシンジャー。


連れてきた兵士の大半は、屋敷の周りを包囲させている。


そして屋敷の最奥、アリストの執務室の前にたどり着いたキッシンジャーは、厚いドアを蹴破る。


はたして、そこには驚愕に震えるアリスト侯爵の姿があった。


「アリスト!今回のクーデターの責任をとってもらおう!」


「お、お前ら、や、殺れ!殺っでしまえ!」


アリストとキッシンジャーの間に4人の傭兵が立ちはだかる。


その顔ぶれにキッシンジャーは見覚えがあった。


『キングス傭兵団』


この大陸において最強と呼ばれる戦闘集団。


その幹部4人であった。


1対1であれば遅れを取るキッシンジャーではない。


だが4人となると話しが変わる。


どんな負け戦であっても、その強い連携技を駆使して生き延びて来たのがこいつらである。


直接対戦したことは無くとも、キッシンジャーが大きく不利であることには変わりない。


「近衛騎士様よう、残念だったな。


いくらお前が強かろうとも、俺達にはかなうまい。


せいぜい楽しませてくれよ、ハハハハハハ」


「驚かせてくれたな、キッシンジャーよ。


お前も今日で終わりだな。


ガハハハ」


大枚を叩いて呼び寄せた心強い味方の落ち着いた笑い声に気の弱いアリストとはいえ、心に余裕が出来たのだろう。


「ふん!こんな奴らすぐに片付けて、お前の素っ首を陛下に献上してやるわ」


「く、くそっ!言わせておけば。


お前達殺っでしまえ!」


こうしてアリスト侯爵邸でキッシンジャーの無謀な戦いの幕が切って落とされたのだ。




「うっ、がはっ!」


傭兵団の4人相手に奮戦するキッシンジャーではあったが、やはり歴戦の傭兵の連携技には、対応出来ずにいた。


何とかふたりまでは斃したのだが、キッシンジャーも満身創痍で、既にいつもの動きは出来るはずもなかった。


襲いかかるキングス傭兵団の団長と副団長。


もはや、キッシンジャーの体力は限界である。


「これで終わりだ!」


体勢を崩して片膝をつくキッシンジャーに、キングス傭兵団長の剣が振り下ろされる。


ガキーン!


キッシンジャーを捉えたはずの剣が真ん中で真っ二つに折れた。


そして、剣をへし折ったそれは、返す動作でキングス傭兵団長の頭を2つにかち割る。


その光景に怯む副団長をキッシンジャーは見逃さなかった。


斜め下から掬い上げるように放たれた剣は、ターゲットを真っ二つに切り裂いたのだ。


あっという間の逆転劇に何が起こったのか見当も付かないアリストであったが、自分の運命がここまでだと気付いたのか、その場に倒れ込むのだった。


「陛下ーー!ご無事でしょうかーー!」


「おお、キッシンジャー!


よくぞ戻って来たな。アリストはどうした?」


「はっ、捕らえて牢獄に繋いでおきました」


「シリウス、ご苦労であったな」


「はっ、ジバ様の申し付け通りに、敵の屋敷に踏み込んだところ、こちらのキッシンジャー殿が奮戦しておられましたので、少しだけ助太刀させて頂きました」


「何を謙遜されるシリウス殿。


貴殿の援護が無ければ、わしはあの場で真っ二つに斬られておったわ。


よくぞ援護下さった。かたじけない」


「どうやら、キッシンジャーの方もジバ王子に助けられたようだな。


ジバ王子、本当に感謝する」


「サリュー殿の命懸けの連絡があったからですよ。


ヤリス王、連邦国家への参加表明、ありがとう御座います。


共に民の為、頑張りましょう」


「ああ、よろしく頼みますぞ」


クーデターの混乱覚めやらぬ中、ジバとヤリスの固い握手が両国のみならず、全世界における連邦国家参加の機運を加速させることになるのだった。





ジバがシルベスト王国のクーデターを終わらせていた頃、アウストラ王国でも大きな粛清が行われていた。


シュミクト王によるジャメール公爵の拘束である。


表向きはジバの暗殺に対する嫌疑であったが、実際にはクーデター未遂である。


シルベスト王国のクーデター収束後、反乱軍をそのままアウストラ王国に向かわせる計画が発覚したのだった。


そして、偶然にもジバがシルベスト王国に向かったという情報を得た為、計画は前倒しされようとしていた。


派閥貴族を含めて集めた私兵を集結させて、王城を落とそうとしていたところを、バジル率いる騎士団が一網打尽にしたのだ。


この一連の流れが、ジバの機転により、シナリオが書かれていたことは、王家以外に知るものはなかった。



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