第35話
「早すぎるな。やはり王の側近にもサリア派が入り込んでいるということか」
サリューが王城を出た翌日、早くも彼は刺客に襲われていた。
王都の外門を出てしばらく馬を走らせた草原でのことである。
ジバとの接触を決断したサリューの行動は迅速であった。
とにかくサリア派に気付かれぬうちに行動する必要があったのだ。
だが、王の親書を携えて取るものも取らず愛馬に跨り王城を飛び出したにも関わらず、この有様だった。
いかにサリア派による王国支配が進んでいるかを今更ながらに痛感してしまう。
学生時代は王の警護も兼ねていたサリューの剣撃は鋭く、多少の刺客くらいでは相手にもならないのだが、いかんせん数が多い。
しかも用意周到に待ち伏せされていたのだ。
波状的に草むらの中から現れては攻撃してくる刺客達。
剣、槍、石礫など次々と繰り出される攻撃に、さすがのサリューも無傷とはいかない。
ようやく草原を抜け出し、近隣国の街に逃げ込んだ時には、満身創痍の状態であった。
王家の紋章を見せ外門をくぐる頃には、さすがに追手の姿も消えている。
サリューは心配する門兵に丁寧に挨拶をすると、そのまま街を駆け抜けて反対側の門から抜けて出たのだった。
「ジバ様、至急の来客が来られておりますが」
「うん?今日は予定に無かったと思うが」
「それが、シルベスト王国の宰相であるサリュー様と名乗られております」
「シルベスト王国?」
「はい、ジャメール公爵夫人サリア様のご実家であったと覚えております。
サリュー様は刃物傷による深手を負っておられ、ただいま治療を行っております」
「ジャメール公爵夫人の実家と傷付いた宰相の突然の訪問か…
すぐに会おう」
「サリュー殿、ご加減は如何か?」
「これはジバ王子とお見受けします。
この度はこの様な格好で突然の訪問、ご無礼致します」
「問題ありません。状況から考えて、緊急を要すると察します。
早速お話しを伺いましょう」
「助かります。
わたしがここに来たことで、この時間にも我が国の王に危険が迫っているやもしれませんので」
「なるほど、確かにサリュー殿の懸念は分かりました。
シルベスト王国の連邦国家への参加を承認すると共に、連邦国家代表として、わたしも共にシルベスト王国に向かい、ヤリス王にお会いいたします」
「有り難いことではありますが危険です。
恐らくは帰りも刺客が待ち伏せしているでしょう。
無事に辿り着けるかどうかも…………」
「問題ありません。元はと言えば、我が国のジャメール公爵が発端でもあります。
この際、その辺りの禍根も何とかしたいものです」
こうして、ジバは側近数名とサリューを伴い、シルベスト王国へと向かうのだった。
「ガキーン!ギャーン!!ぐうわっ!」
シルベスト王国へと入国するなり、ジバとサリューは襲われていた。
既に身元を隠した刺客などでは無い。
あちらも必死なのだ。
王城ではヤリス王の暗殺を目論むも失敗。
サリア派筆頭のアリスト侯爵がサリューの不在を狙った凶行ではあったのだが、さすがはヤリス王ということか、自らへの凶行を予測し、身辺を固めていたのだ。
暗殺に失敗したことで、自らの危機を悟ったアリストは私設騎士団を使ってクーデターを起こした。
派閥に属する貴族兵を合わせると1000名を超える兵士が王城を取り囲む。
対する近衛騎士団は500。
それでも城内に潜入されていなければ、攻めるに難いものではあるのだが、内通者により開け放たれた門からは、続々と賊軍が押し寄せているのだった。
「陛下、早くお逃げ下さい!」
「キッシンジャー!俺は大丈夫だ!
とっとと首謀者のアリストを捕えに行けっーー!」
「陛下ーーー!」
ヤリス王は次々に襲いかかってくる兵士達を迎え撃ちながら、サリューが戻るのをひたすら待った。
必ず帰って来る。そう信じて。
「うわっ!」
「くわーーっ!」
バタバタバタバタ
「キーン!ガッ!」
来たか、やっと戻って来たな。
「陛下ーー!ご無事でしょうかーー!」
「サリュー!こっちだーー!」
「陛下ーー!」
目の前にあれ程のひしめいていた兵士達が後方より、大きく崩れていくのが見える。
その中心を大きく振り下ろされている槍の先に斧のような刃物が付いた初めて見る武器。
長さは3メートル以上あろう、その大得物を軽々と振りながらこちらに向かってくる大男の姿が見える。
「あれは?」
その大男がその桁違いの武器を振るうたびに、何人もの反乱兵士達が薙ぎ倒され、危うく難を逃れた者は、死神でも見たかのような必死の形相で戦場から逃げ惑うのだ。
「陛下ーー!ただいま戻りました!」
「サリュー、よく戻って来てくれたな。
助かったよ」
「はい、遅くなって申し訳御座いません」
「何を言うか。それでそちらの御仁は?」
「ジバ王子で御座います。
こちらでクーデターが始まっているかもと仰って、すぐに駆け付けて下さいました」
「何と、アウストラ王国のジバ王子でもありましたか。
いやはや、お噂では非常に頭の切れる傑物だと聞いておりますが、あの無双具合、聞きしに勝る英雄ですな。ハハハハ。
何にせよ、我が国の存亡の危機によくぞ駆け付けて下さった。
ありがとう御座います。」
あちこちに見える刀傷が、この場の戦闘の激しさを物語っていた。
それほどの激しい戦いの後であっても、威厳を保ち続けるヤリスに、王としての器の大きさを感じるジバであった。
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