第33話

連邦国家樹立に向けて、準備は着実に進んでいた。


アウストラ王国に間諜を潜り込ませていた国ほど積極的に参加を表明しているのは、やはり国内におけるジバの功績によるものが大きいのだろう。


そして躊躇している国には小国が多い。


確かに大国が揃って参加を表明したことで、流れに遅れまいとする小国が多いのも事実ではあるが、自国の運営自体が自転車操業であるような国においては、参加することで発生するであろう、様々な制約や役務に対しての負担を危惧する国も多い。


ジバはそれらの国に対してどうするべきかを考えていた。


「既に参加を表明している小国に先に技術供与するのは如何でしょうか?」


「確かにスミセスの言う通り、先に技術供与すれば、迷っている国々の参加を促進できるかもしれない。


だが、それだけでは結果が出るまで時間が掛かり過ぎてしまう。


もっと直接的なアプローチが出来ないだろうか?」


「あのぉ、すいません、発言をお許し願えますでしょうか?」


「ああ、ヘルシー。何も遠慮などすることは無いよ」


「ジバ様、実際に改革を進めた領地を見てもらうのは如何でしょうか?


大国がすぐに参加を表明したのは、恐らく間諜が改革の一部始終をつぶさに見ていたからだと思います。


それほどの実績をジバ様はあげておられるのです。


ただ、間諜を出していなかった小国は、その情報を伝え聞くのみであり、信憑性を含めて吟味に時間が掛かっているものと思われます。


それらの懸念を払拭するためには、実際に見てもらうのが早いと思うのですが」


「しかし、参加の方針も定まらぬ今、改革の詳細を教えてしまうと、連邦国家に加わる必要が無いと考える国も現れそうですが」


「そうだな、確かにワイダーの、言う事にも1理ある。


だが、俺はヘルシーの案を採用したいと思う。


よく思い出して欲しい。


何のために連邦国家を作るのか。


この世界に平和と安寧を齎し、邪神復活を阻止することが最終目的なのだ。


連邦国家に加わらなくとも国が平和になり民に安寧が齎されればそれでも良いと考えよう」


「失礼しました。


連邦国家樹立にばかり目を向けており、肝心な目的を忘れるところでした。


ヘルシー殿と調整し、見学してもらう為の案について考えたいと思います」


自治大臣のワイダーが俺に頭を下げると共にヘルシーにも頭を下げる。


国の重鎮でありながら、自らよりも格下と言えるヘルシーにも素直に頭を下げて、柔軟に考えを変えられる辺りが、父王がこのワイダーを信頼するに値するのだと、ジバは思う。


そして、父王が作ったこの国家基盤があるからこそ、自分が自由に動けることを改めて思うのだった。






「ここがスタンピードによる壊滅状態から、たった数年で復活した街なのか!」


国土の大半が山地で耕作に適した土地が少なく、食糧不足に悩んでいる国『サーダン』の国王と宰相は、アルカイド男爵領で起こった奇跡の復興の一部始終を見聞きしていた。


すっかり人の戻って来た街には笑顔が溢れ、自国では深刻なスラムの存在も全く感じさせない。


孤児院や病院も充実しており、スラムが発生する原因を抑えられているのが大きいのだろう。


それでも、貧富の差はどこにでもある。


だが、全住民に対する定期的な炊き出しや国による就業の斡旋など、誰もが平等に仕事を与えられる仕組みがそこにはあった。


そして各農家においては国の専売よる米の定額買い取りや特産物であるアルカイド芋による安定した収入があり、アルカイド領には、黒サンゴによる外貨の獲得としっかりとした財政基盤があることがそれらを支えているのだった。


「この領地が、特別なのでしょうか?


他の領地ではこれだけの財源確保は難しいのではないですか」


「ええ、仰る通りです。


ですが、ジバ様はその土地に合わせた特産品や輸出品を見出してから、復興計画を作られておられます。


そしてそれに必要な教育や支援策を考えて実行されています。


ですから、ある程度の差はあっても、どの領地でも財源確保は可能なのです。」


「それは分かりますが、実際に実行するとなると、どれほどの知識を必要とするのか………」


「それを可能とするのが、ジバ様なのです。


信じられないかと思いますが、ジバ様が神から与えられたという知識があればこそなのですよ。」


信じられないという面持ちを拭えないサーダンからの客人であるが、別の領地でも同様の光景を見せられると、もう疑う余地も無くなってしまう。


「ワイダー殿、連邦国家に参加すれば、我が国にも奇跡の知識を頂けるのだろうか?」


「はい。連邦国家に参加頂ければもちろんですが、ジバ様はこうも仰っておられました。


『連邦国家への参加が叶わぬとも、我が国の策を参考にして国を豊かにしてもらえるのであれば、それだけでも十分に目的は果たせる』と。


ジバ様の最終目的は全世界の民の安寧にあります。


ジバ様にとって、連邦国家樹立は、その手段の1つでしかないのです。」


サーダンの国王と宰相はその言葉に絶句するのであった。


後日、連邦国家に加わったサーダン国がジバの助言の元、棚田による米の生産と、岩山からの岩塩の採掘により、民に安寧を齎したことは、他の小国に大きな衝撃を与えたのだった。



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