第32話
「ジャメール公爵様、情勢が急速に我らの不利に傾いております。
どうやらアルカイド領の復活が大きな起爆剤になったようです。
あのスタンピードで消滅したはずの諸領の生き残り領主一族達が次々と王家に領地返還を行い、復興を求めております。
実際に王家直轄領として再生しているところも増えつつあり、王家の信頼感も経済力も日増しに増えている状況です」
「ふん、忌々しい! シュミクトめ、本当に目障りな奴だ!
本来なら圧倒的に優秀だった儂のほうが王に相応しかったのに、なぜか前王は奴を選んでしまったのだ。
奴の力を削ごうと妃を2人も入れることで、次期王を手駒にしようと考えていたのに、あのアントワンという女にまんまとやられてしもうたわ。
そしてジバの暗殺にも失敗し、今の体たらくだ!
幽閉されてしまったあの2人やその一族も、今となっては我々の足かせにしかならん。あれほど時間と金を掛けて計画してやったものを...
全く、使いもんにならぬ者達だ!」
サルバート・ジャメールの怒り声が屋敷に響き渡る。
ここは王都より500キロメートルほど離れた広大なジャメール公爵領にあるジャメール公爵邸。
スタンピードの被害を全く受けなかったこの地は古来より肥沃な土地としてジャメール家が代々治めている。
ジャメール家は、初代アウストラ王を祖とする王族であり、何人もの王を輩出してきた由緒正しい家系なのだ。
数代前までは、アウストラ王国では世襲制ではなく、4家あった王族家の中から優秀な者が選ばれていた。
だが、王の座を巡る4家の内紛が絶えず、5代ほど前から王による指名制と変わっていた。
そして、時代の流れの中で、今では現王家であるアウストラ家とサルバートが現当主であるジャメール家の2家しか残っていない。
サルバートはシュミクトよりも3歳年上である。
王立学院に先に入学したサルバートはその高貴な血筋故に入学と同時に生徒会長へと推挙される。
当然とばかりに学院を我が物のように扱うサルバートを諫める者は当然居らず、サルバート自身もそれが自らの器によるものだと盛大に勘違いしていた。
そして3年後にシュミクトが入学してくる。
サルバートよりも家格が上にも関わらず誰に対しても真摯に対応するシュミクトは、たちまち学院での名声を高らかにしていくのだ。
そしてサルバート5年次、シュミクト2年次の年の生徒会長選出投票にて、シュミクトが圧倒的勝利し、4年もの間続いたサルバートによる学院の独裁に終止符が打たれた。
シュミクトはサルバートに対して「副会長として支えて欲しい」と懇願するも、それを自らに対する侮辱だと受け取ったサルバートはシュミクトに対して憎悪を燃やし、学院運営に多大なる妨害工作を行うのだが、シュミクトの機転により全ては失敗に終わる。
しょせん、生家の威光を自らのそれと勘違いしている考えの浅いサルバートでは、利発で人望の高いシュミクトに敵うはずもなかったのだ。
鬱々と不満を募らせる日々、そしてついにサルバートは学院内で軍事クーデターを起こす強硬策に出てしまう。
校舎の一部を破壊する暴挙に出たところで、その企みはシュミクト達に鎮圧され、サルバートは学院を追われることになり、それ以来しばらくの間、謹慎させられたのだった。
当然、王がサルバートを指名するはずもなく、次期王に指名されたのはシュミクトであった。
その後、王の崩御とシュミクトの王位継承時に恩赦として謹慎を解かれたサルバートではあったが、自らの罪に対する懺悔など微塵もなく、シュミクトに対する憎悪を燃やしていたのである。
「シュミクトの奴、各国に向けて『連邦国家』なるものを提案しておるようだな。
邪神復活などと分けのわからん世迷い言を言い出したとか。
それも、あのアントワンの息子のジバが言い出した夢の話と言うではないか。
馬鹿馬鹿しくて話にならぬわ」
「ですが公爵、このまま捨て置くわけにもいきません。
あのアズバン王国とギランシア帝国も後押ししている様子。
このままではシュミクト王とジバ王子が盟主としてこの世界の大多数の国が連邦国家なるものへ参加することになります。
そうなれば、ますますアウストラ家の勢いは増し、ジャメール派は衰退してしまうでしょう。」
「馬鹿なことを言うな!そんなことがあるわけが無い。
いや、しかし、これは好機やもしれんぞ。
こんな下らん世迷い言から始まった連合など、この国で反乱のひとつも起これば、逆に奴らの信頼関係を失墜させるだろう。
なあに、上手くやってやろうぞ。グハハハ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます