第31話
各国使者が持ち帰った報告『邪神の復活と神から啓示を受けたジバ』は瞬く間にエルザイム世界に拡がった。
アウストラ王国を滅亡寸前までに追いやった、スタンピードと古竜の襲来を知る各国の王は、そのまだ見ぬ脅威に恐怖するばかりであった。
経済的にも軍事的にも大国であったアウストラ王国をあれほど苦しめた厄災。
自国であれば早々にスタンピードに飲み込まれ、仮に国の体をなんとか維持できたとしても、経済的に破綻するしかなかっただろう。
実際に、アウストラ王国においてもジバ王子の奇跡が無ければ確実に国の消滅は免れなかったであろうと誰もが思っていた。
それは、経済的な破綻寸前まで追い込まれながらも、急速に以前の力を取り戻しつつあるアウストラ王国の現状を鑑みれば誰しもが疑いようのない事実である。
そう、ジバの行った数々の奇跡は、自国の使者が持ち帰った信じ難い報告を全て正当化して余りあるものだったのだから。
そして今、アウストラ王国シュミクト国王はジバ王子を次期王と定め、来る邪神の復活に対抗すべく、連邦国家なる構想を全世界に表明している。
そして、既にギランシア帝国やアズバン王国といった大国もその席上において協力を承諾し、連邦国家に参加を表明したというのだ。
姻戚関係を持つギランシア帝国や元よりの友好国であったアズバン王国は、それぞれ皇帝と第1王子が出席しており、事前に話しを聞いていたとは想像できるが、その事実は他国の使者に大いなる衝撃を与えるものであり、その報告を受けた王族も無視することなど出来ない程の衝撃を受けている。
「もっと詳細な情報を集めろ」
「連邦国家とはどのようなものか?」
「参加することで我が国の立場はどうなる?」
各国の王城内では、日夜、喧々囂々の議論が交わされている。
未だ国内での勢力争いに明け暮れる貴族達の駆け引きが絡み、早急な結論など出るはずも無いのだ。
しかし、そうとも言っていられないのも事実だ。
近隣の小国が次々と連邦国家への参加を表明しているのだ。
各国の王は、頭を悩ましていた。
国内の政争にうつつを抜かしている場合ではないのだ。
こうしている間にも近隣諸国は連邦国家に参加している。
果たして連邦国家に参加することが正しいのかどうか判断が付きかねるが、『世界の繁栄』を掲げる連邦国家への参加は、少なくとも驚異の復興を果たしたアウストラ王国の奇跡の技術を享受できる可能性があった。
もし、近隣の小国がその技術供与を受けて急速に発展してしまった場合、自国の産業が斜陽になってしまう可能性が高い。
そうなってから連邦国家に参加しても、見込める利が薄いのは火を見るより明らかである。
❝早急に連邦国家に参加すべき❞
賢明な王は皆そう思う。だが、王国内の自らの地位にしか興味の無い貴族共はそうは思わないのだ。
事実、強引に連邦国家への参加を表明しようとした王に対し、反対派と肯定派が対立し、内乱まで発展した国もあるのだ。
そういった事例も、おいそれと参加表明するわけにもいかなくなっている一因であるのだった。
「64カ国のうち30カ国までが連邦国家への参加を表明しております。
やはりギランシア帝国とアズバン王国が当日に参加を表明してくれたことが大きいですね。
それと傾向としては小国ほど早くに参加しているようです。
国が小さい分、意思決定がスムーズであることが大きいのでしょうが、『奇跡の技術』と呼ばれているジバ王子の知識を享受して経済的な発展に結び付けたいという思いが強いようですね」
「なるほどな。しかし、スミセスお前が事前に両国とネゴしてくれていたことがこの良好な結果を生み出していると言えよう。
よくやってくれたな」
「陛下、恐れ入ります。ギランシア帝国の方はキャスバル王子とフランソワ妃の力添えがありましてのことです。」
「うむ。だがアズバン王国とは、経済的にも最疲弊していた時からラファエル王子との良好な関係を作っていたお前の功績だ。
これからも国のため、連邦国家のために尽くしてくれよ」
「ははーー」
「それでだ、バジル、キャスバル、国内の貴族の反応はどうだ?」
「はい、陛下が突然全世界への発表をされたことで、動揺している者が多いのも事実です。
ですが、概ね良好に捉えられているようです。ジャメール公爵派を中心として息のかかった2,3の派閥が反対側に回っているようです」
「ジャメールか...あ奴はいつになっても理解できんのじゃな。
全く、どうしようもない奴なのだが、今粛清してしまっては国内に内乱を引き起こしてしまうことになる。
とはいえ、何とかしなくてはな」
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