第30話

社交会場の中にある一段高い場所、そこに父王と並んで立つジバの姿があった。


後ろにはジバのふたりの兄騎士団長のバジルと、監理部局長のキャスバルが控えている。


それを見た各国からの出席者は、改めてジバをこの大国アウストラの次期後継者であると再認識するのであった。


「本日はこのジバの成人の儀を迎えるにあたり、遠路はるばる各国から参席頂いたこと、深く感謝する。


我が国は8年前に魔物による巨大なスタンピードを経験し、亡国となり果てるのではないかと思われるくらいの痛手を受けた。


だが、御承知の通り、神の元で様々な試練を積んだジバの知識と卓越した行動力でスタンピードの元凶であった古竜を滅し、見事国難を乗り越えることが叶ったのだ。


そして疲弊しきったこの国を、ここまで回復させたのもジバの知識と行動力であった。


そして我もまた神の啓示に従い、この国の行く末をジバに託すこととする。


ご来席各国の使者殿に置かれては、その旨しかと王へと伝えて頂きたく思う。


そして、もうひとつ、神よりの啓示としてジバに託されたこの世界の行く末について話しをせざるをえまい。


ジバよ、その方の口から神からの啓示を告げるがよい」


居並ぶ各国の使者の目がジバに集まる。


この世界でも有数の大国であるアウストラ王国の王が全世界に対して公式に次期王として指名したこの若者を見定めようとする鋭い視線を見てジバの秘めたる闘争心が熱を帯びる。


その高ぶる感情を冷静にコントロールし、一歩前に踏み出したジバは大きく深呼吸をした後、凛とした声で話し始めた。


「わたしは10歳の時に1年間昏睡し、神の世界に誘われていました。


そこでは、この世界よりもはるかに進んだ文明の中で暮らす青年となって農業や政治について学ぶことが出来ました。


そして昏睡から目覚めて米の生産を始めたのは、皆さんもご承知のことだと思います。


そして1年後、またしても神の世界に誘われたわたしは、3人の戦略家の目を通して武芸と戦における戦略や駆け引きを学びました。


そして3年後にこちらに戻って来た時に、古竜を斃してスタンピードを収束させました。


その後また3年間は、神の世界でこの世界には未だ存在しない様々な技術や政治体制、文化を学んできました。


そして最後に神はわたしにこう仰いました」


ここまで話して一息つく。


ジバの話しを一言一句漏らさずに自国に伝えなければという無数の真剣な眼差しがジバに突き刺さっている。


それを心地よい緊張感としてジバは感じ、次の言葉を紡いでいく。


「後50年、いや今からですと47年後にこの世界に邪神が復活します。

神は、わたしが斃した古竜も邪神の先兵であると仰いました。


そして邪神の復活はこの世界に混乱を招き、この世界を破滅に導くとも告げられました。


『邪神が好むは人の負の心である。善政を敷き、民を安らぎ、世界を平和に導くのだ。


この世から負の心を無くすことは出来ないであろうが、邪神が復活できない程の正の心を等しく民が持つようになれば邪神の復活を阻止できるであろう。


我が使徒として邪神の復活を阻止するのだ』と神はわたしに言い残してこの世界へと戻されたのです」


居並ぶ各国の使者達の息をのむ音だけが会場を埋める。


「この場に参列された使者の皆さん。今のジバの言葉を各国の王に正確に伝えて欲しい。


我からも書簡にて正式に要請を行うものではあるが、あと47年というあまりにも短い期間に神が申されるような世界が作れるかは、我々の心持に掛かっていると言えよう。


わたしはジバを中心とした連邦国家を樹立したいと願っている。


これは、わたしが直接神から受けた啓示に基づく判断でもある。


どうか、この連邦国家が成功するように、また連邦国家とはどのようなものになるのかを冷静に議論し、次の世代に託していきたいのだ。


よろしく頼んだぞ!」


「「「ははあーーーっ」」」


ジバ、そしてシュミクト王が神の啓示について話す時、彼等の後ろに神々しい光が拡がっているように一同は感じていた。


そして、彼らが私欲で話しているのでは無いことは、その場の誰もが認識していた、いやせざるを得なかったと言えよう。


未だ肌寒い初夏の晩、エルザイム世界における大きな意思が動き出した瞬間であった。

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