第29話

「ジバ殿、うちの末娘ソフィアだ。


今年15になったところでな、今日が初めての外交となる。


仲よくしてやって欲しい。」


俺の成人の儀の宴で、キャスバル兄さんの妃であるフランソワ姉さんの父親、ギランシア帝国皇帝より紹介されたのは、フランソワ姉さんの妹であるソフィアだった。


「初めましてジバ様、カインが娘ソフィアと申します。ジバ様のお噂はかねがね姉から伺っておりました。


本日お会いするのが本当に楽しみでしたの。」


清楚という言葉が良く似合うフランソワ姉さんとは逆で、行動的な美人に見えるソフィア嬢。


ニコニコと微笑む瞳の奥に光る理知的な光を好ましく思う。


「ジバ殿、後で良いので、ソフィアに少し付きやってもらえぬだろうか。


姉のフランソワと違って、この子は領地経営に興味を持っておってな。


ジバ殿が起こした数々の奇跡に興味津々なのじゃよ」


「はい、よろこんで。


とは言え、改革担当大臣であるスミセスの働きが大きいので、わたしの奇跡と呼んで頂くのは些か心苦しいのですが」


「そ、そんなご謙遜を。


実際に改革を進めておられるのは確かにスミセス様だとお聞きしておりますが、それらは全てジバ様のご発案で、試験的な実績をジバ様が作られてからのお話しとか。


姉からも、誰も想像もしないようなアイデアを悉く成功されていると聞き及んでおりますの。


是非わたくしにも色々なお話しをお聞かせ下さいませ」


瞳を爛々とさせ、熱くこちらを見つめる目は、正しく恋する乙女のようだが、これは恋と言うよりは憧れや好奇心といった辺りが正しいのだろうとジバは思う。


尤も、人生における大半を異世界で過ごしてきたジバにとって、女心などというものを理解する術も無いのだが。


カイン皇帝達と別れた後も、ジバの元には数多くの来賓が訪れる。


これまでほとんど名を聞かなかった無名の第3王子が、突然様々な改革の奇跡を起こし、瞬く間に世界中に名声を轟かしたのだ。


それらは、これまでジバがやってきた様々な軌跡を王位継承のために仕組まれたパフォーマンスと考える者達が3割、自国の脅威と捉える者が3割、そして残りは、アウストラ王国が起こした奇跡的な復興の恩恵を少しでもと期待する者達であった。



ひと通り挨拶を終えたのはソフィア嬢との出会いからおよそ2時間後のことである。


馴れない社交に辟易としていたジバの元にやって来たのは、キャスバル兄さんとフランソワ姉さん、そしてソフィアである。


「ご苦労さま。やっと開放されたようだね。」


「ええ、キャスバル兄さん。社交がこんなに大変なものだとは全く知りませんでした。

もうへとへとですよ」


「ジバさんは今日が社交デビューですものね。それも、こんな諸国が集まる大規模な社交会の主役ですもの、良く務めあげていると感心しておりましたのよ。


ねえ、キャスバル」


「全くフランソワの言う通りだ。わたしでもこんな大規模な社交会に出席した経験はごく僅かだぞ」


「ジバ様、お疲れ様でした。あちらで少しお休みになりませんか?」


「有難うございます、フランソワ姉さん、ソフィア嬢。」


まだジバに声を掛けようとしている外交官達をさりげなく遮るようにキャスバル達ははジバをバルコニーに誘ってくれた。


風の心地よいバルコニーでようやく一息付けたジバである。


「ジバ、ここでゆっくりと英気を養う方が良いよ。この後父上からあの話しがあるからね。」


「そうですね。どちらかというと、今日はあちらがメインでした。」


「お兄様、あの話しとは?」


「ああ、ソフィアちゃん。今日はね、ジバの成人を祝う場なのだけど、実はこの世界に関する大きな意味を持った話が公開される日でもあるんだ。


まあ、ジバにはもうひと働きしてもらう必要があるんだけどね」


「それは、ジバ様が神に導かれておられた間に経験されたことと関係があるのでしょうか?」


「うん、俺が神より啓示されたこの世界の運命とでもいうべき事かな。


申し訳ないけど、これ以上は話せないんだ。」


まだ何か聞きたそうにしているソフィアだが、ジバの真剣な眼差しを見て、言葉を飲み込む。


「そろそろ、陛下からあの話しが出そうだな。中に戻ろう」


ベランダから中に戻ったのと同時に、父王が姿を見せた。その横には騎士団長のバジル兄さんが寄り添っている。


厳しい眼差しの父王の目がジバを捉える。


そしてそれを合図にジバは父王の元へと移動するのであった。





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