第27話

旧アルカイド領の奇跡の復活は王国全土に衝撃を齎した。


あのスタンピードから6年。国有化されてから僅か2年のことである。


米や麦はたわわに実り、国内有数の穀倉地帯になっている。


黒サンゴの国外輸出も始まり、その品質の良さから高値で取引されているし、今や有名ブランドとなったカライモは『アルカイド芋』として、絶えず品薄状態が続いている。


以前は寒村の飢えを凌ぐだけの存在でしかなかったカライモだが、今では王都の一等地で販売されるようにもなった。


やはり品種改良による豊かな甘さと、それを活かしたバラエティ豊かな調理方法を開発したことが勝因であろう。


王城前広場にあるスイーツ店には、今日も王都の民が列をなして甘味を求めているのだ。


この数年、ジバの精力的な活動を冷ややかな目で見ていた有力貴族達であったが、今では血眼になって、真似をしようと動き出している。


それほど旧アルカイド領からの収益は王家の権威を高めることに貢献しているのだった。



「ジバよ、この度のアルカイド領の復活並びに米や麦、そしてカライモの量産における国庫の回復、見事であった。


あの利に敏い有力貴族達が全く気付かないうちに、これだけのことをやってのけたのは、やはり神の御導きであろうか。


いや、ジバのその才が齎したのであろうな」


「全くだよジバ。最初お前から話しを聞いた時は半信半疑だった。恐らくわたしだったら、これほどスムーズに進めることは出来なかったに違いない。


ジバの行動力と決断力には頭が下がる思いだ」


「いえ、キャスバル兄さんが王都で邪魔をする者達を抑えて下さったからですよ。

あれが無かったら、こんなに早くは難しかったでしょうね。


それにバジル兄さんが素早く騎士団を派遣して検問を築いて下さったので、間者の侵入を許さなかったことも大きいです」


「とにかく、お前達の活躍は傾いた王家の威信を大きく回復させた。

バジル、キャスバル、ジバ、よく頑張ってくれたな」


魔王シュミクトは目を細めて3人の息子を眺める。


あの陰謀渦巻く王家内の抗争時代からは考えられない光景である。


王妃アントワンも夫に寄り添いながら、この幸せを噛み締めていた。


「ジバよ、お前も今年18になる。ふたりの兄は共に嫁を娶っておる。お前もそろそろ婚姻を考えぬか?


そして、落ち着いた頃にお前に王位を引き継ごうと考えておるのだ」


シュミクト王の突然の言葉に、ジバは頷く。


この地に戻った際に神から告げられた邪神復活までの時間は50年。


そしてあれから既に3年の歳月が経っているのだ。


ジバは大いなる意思との約束を守るため、この先、無為に時間を費やすわけにもいかないのである。


邪神によるこの世界エイルザイムの崩壊を阻止するためには、まだまだやるべきことは山のようにあるはずだ。



「ジバ、再来月のお前の成人の儀には、大陸各国の王族を招待している。


そしてその場で、お前に起こった数々の奇跡と、神からの啓示を伝えようと思っている。


そして、我が国と協調してくれる国を集い、以前お前が話していた連邦国家樹立について話しをしたいと思っているのだ。


連邦国家が成る時には、互いの絆を深めるためにお前との婚姻関係を望む国も出てこよう。


考えておいてくれぬか」


「承知しました」


エイルザイムを邪神から救うためには各国の協力が不可欠である。


そのためには強固な連合体として機能させないと、なかなか進まないだろう。


そういう意味でもエイルザイム全体をひとつの国として動かせる連邦政府の存在をジバは父王に進言していたのである。


この3年もの間、父王や宰相、キャスバル兄さんがジバの知る連邦国家のイメージを基に様々な検討を行い、この世界で実現可能であろう姿に纏めてくれていたのだった。



邪神復活まで残り47年、エイルザイムは新たな局面を迎えることになるのだった。


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