第24話

王都へ戻った俺とヘルシーは、アルカイド領におけるカライモの試験栽培について具体的な検討に入ることとなった。


まず最初にすべきこと、それは復興である。


今のような貧困の中で試験栽培場を運営することは難しい。


そのためには、何とか復興させなければならないのだが、この試験栽培のことは秘匿性が極めて高い。


もし、アルカイド領だけに復興資金を注入すれば、同様にスタンピードの被害を受けた領地だけでなく、広く王都の貴族連中にも、その真意を勘繰られてしまうだろう。


かといって、他領にまで資金注入できるほど国庫に余裕が無いのも事実であった。


それほどまでに、スタンピードの影響範囲は大きく、国も疲弊しているのである。


「何か国が専売できる物でも見つかれば...」


アルカイド領付近の地図を俯瞰しながら独り言ちる。


なにか鉱物でも見つかれば、その開発を名目として領主不在のアルカイド領を国有化できるだろう。


そうなれば、あそこだけに国庫をつぎ込んでも、おかしな話しではないのだ。


何かあれば...


アルカイド領は西と東を峻険な山に塞がれており、南には海岸がある。


他の領と直接接しているのは北側だけである。


先日訪れたアルカイド男爵屋敷はちょうど領地の中央辺りにある。


南北に長く、平野は少ない。


山岳地帯からの冷たい吹き下ろしがあり、海岸からの潮風に晒されるその地形は、農地には適していない土地柄であった。


たしか、スタンピード以前は海産物が収入源だったと聞いている。


「海に鉱物か...サンゴ!サンゴはどうだろうか?」


サンゴには魔力が多く含まれており、魔道具を作るのに必須の素材である。


だが、日照時間が短く海にも魔物が巣食うこの世界ではサンゴ自体が希少な存在である。


当然、国の管理下に置かれるような存在であり、伝え聞くアルカイド男爵の人柄を考えると、到底その領内にサンゴを抱えているとは思えなかった。


「...無いだろうな、しかし、見に行くだけでも行ってみるか。

よし、スミセスを連れて行こう」


すぐにスミセスに打診すると、大喜びで行くという。


昔の慎重さは何処へやらである。


こうして俺とスミセスのふたりは、アルカイド領に向かった。







「どうだ、スミセス。サンゴは見つかったか?」


「いえ、まだです。ただ、この辺りは魚も豊富ですね。どうやらスタンピードで北側から流れ込んだ魔物達がこの辺りまで侵入してきて、海の魔物とぶつかったようです。


大量の魔物の死骸が沈んでいます。


そして、それを養分として海藻が増え、沿岸には大量の魚も見られますね。

もしかすると、死骸の下にサンゴがあるかもしれません」




ジバの持つ異界の常識なら、温かく綺麗な海水で育つサンゴだが、この世界では少し違うようだ。


元々日照時間が少ないため、光よりも栄養分がサンゴの成長により強く反映されると書物にもある。


つまり、この地の海は非常に栄養価が高いため、通常なら生育しないような暗い場所であっても、サンゴがある可能性が高いとスミセスは言っているのだ。




「ジバ様、ありました!ありましたよ!」




海の中で魔物の残骸を「うへうへ」言いながら引っぺがしていたスミセスが大声を上げて、興奮している。


どうやら、彼の読みは正しかったようだ。


スミセスが持ってきたサンゴの一部を手に取り観察する。


記憶にあるピンク色ではなく、紫と黒が交じった薄気味悪い色だが、確かに魔力を感じ取ることが出来た。


興奮するスミセスによると、これは黒サンゴという種類で、特に魔力の含有率が高いものらしい。


魔物の死骸から放出されている魔力と栄養素を大量に浴びて、自然発生したのではないかとはスミセスの言である。


なにはともあれ、このアルカイド領を国有地にする理由は出来たわけである。


上手くすれば、黒サンゴの輸出でこの領の復興費用も賄えるかもしれないな。


海に戻ってサンゴの採取を続けているスミセスを無理やり馬車に乗せて王都への帰路へと着いたのは、翌日の早朝のことであった。




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