第18話

少女が提供してくれたカゴイモは、俺の知っているサツマイモだった。


石焼き芋に続き、ふかし芋も皆に大好評であった。


ふかし芋の一部は、布で濾したものを丸めて米粉の団子の中に入れる。


いも餡団子の出来上がりだ。


ひとつ口の中に放り込むと、懐かしい味がする。


裕也の記憶にある郷土料理の味だ。


砂糖も何も入っていない。

純粋な芋の甘さだけ。


それも裕也が居た時代の品種改良されたものではない、素朴な甘さだけが口の中に残った。


陛下と母上達に試食してもらうようにいくつかを取り分け、後は調理場で食べてもらうことにした。


カゴイモは寒村で作ることが多いが、王都ではあまり見かけることが無いという。


王城内の農地の一部にカゴイモの苗を植えさせることにしよう。


そうだな、あの少女に担当してもらおうか。


あれこれと指示を出して、試食用のいも餡団子の入った箱を持って、調理場を後にした。




「これが、新しい料理なのですね。


既に城勤めの女子達の間で話題になっているそうですよ」


「ジバ、これもお前のいう記憶にあった物なのか」


「はい、いも餡団子と呼ばれていました。俺の記憶にある裕也という少年がいた地域で古くから食べられていた物のようで、高価な砂糖を使わず甘味を得ることが出来ます。


また、先日お話ししておりました、今後米を主食として食べ続けることで発生する恐れのある健康被害を防ぐ栄養素も持っていると思われます。


是非ご賞味下さい」


「美味いな」


「美味しいわ」


この世界には砂糖が存在している。が、他国が製法を独占しているため、高価な輸入品としてしか流通していない。


なので、甘味と言えば果物が一般的だ。そういう意味では、このカゴイモは容易に取れる甘味なのである。


「お前のことだから、既にこのカゴイモの手配を始めているのであろうな」


「はい、王城内の農場で作らせるように手配しました。


それと、このカゴイモを使った調理方法もいくつか考案し、カゴイモを副菜としても流通させるように手配する予定です」


「わかった。進めてくれ」


「はい、承知しました」


上機嫌でいも餡団子を食べている家族を残して、俺は食堂を後にした。


「呼び出して済まないな。


先程はありがとう。名を何と言う?」


「ヘルシオーネと申します。」


「ヘルシオーネと申すのか。


それで皆からは何と呼ばれている?」


「………親しいものからはヘルシーと、呼ばれておりますが?」


「では、わたしもヘルシーと呼ばせてもらおう。


ヘルシー、俺はカゴイモの生産量を増やして、第二の主食にしたいと考えている。


そのためには、カゴイモの生育に長けた者が必要だし、それにより十分な収入を得られるようにならねばならない。


ヘルシー、君はそのために何が必要だと思う?」


「……恐れながら申し上げます。


カゴイモ自体はわたしの故郷のような不毛な土地でも育成出来ます。


つまり、カゴイモが各地で栽培され始め、飛躍的に収穫量が増えると、1つあたりの売値が暴落することでしょう。


そうなると、殿下がおっしゃる十分な収入を確保することは難しいかと。


もっと美味しいカゴイモを作るか、爆発的に需要を増やすかを考える必要があると考えます」


このヘルシーという者。


田舎から親族の伝手を辿って、調理場の下働きをしているそうだが、存外に頭が良さそうだ。


誰の下につけようかと思案していたが、これなら一部署を任せても大丈夫じゃないか。


「ヘルシー、君の考えは素晴らしい。


よく、そこまで考えたものだ。


先程も言ったが、俺はカゴイモの普及を目指している。


そのためには君の言う通り、様々な課題を熟す必要がある。


どうだろう、俺と一緒に頑張ってくれないか?」


「そ、そんな畏れ多い。


わたしのような無学な田舎者が殿下のお役に立てるとは思えませんが、ご命令とあれば、精一杯頑張らせて頂きます」


「そうか、分かった。兄上を通して調理場の方には連絡しておく。


ヘルシー、新しく新設するカゴイモ普及推進室の室長を命ずる」

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