第17話
「これは!」
少女の小さな手の上に乗っていたのは、日本でサツマイモと呼ばれていた野菜だった。
確か、繁殖力が強く、飢饉の時にも食べられていたはずだった。
そしてその葉や蔓さえ食べられていたはずだ。
その上、主食になるほどに栄養が豊富で、腹にも溜まる。
「これは何と言う食べ物だい?」
目線を少女に合わせる。
屈んだことでビクッと身を震わせたが、目線を合わせて微笑むと、少女の青ざめた顔に少し色が戻る。
「....お、王子様、これは、カゴモイと言います」
「カゴイモか。これはいつもどのように調理して食べているのだ?」
「王城内では食べられることはあまりありません。
故郷ではこのカゴイモを焼いて食べていました。
その...わたしの村は土地が痩せていて、このカゴイモくらいしか育たないのです。
あっ、でもわたしこれが大好きで、だから、だから、おばさんが送ってくれたんです」
「そうか、じゃあ俺に一本分けてくれるかい。もし俺の知っている植物だったら、これから大問題になるかも知れない事態を未然に防げるかもしれないんだ」
おずおずとカゴイモが入った籠を差し出す少女。
「じゃあ、カゴイモのお礼にこれをあげるよ。みんなで分けて食べなさい」
米をすり潰して作った米粉を使った団子だ。まだ餡が無いため少しの砂糖を混ぜてあるだけだが、砂糖も嗜好品として扱われているこの世界では、貴重なお菓子と言えよう。
「有難うございます。」
「このカゴイモが俺の思っている物であれば、そのお菓子が何倍にも美味しくなるよ。楽しみに待っておいで」
「はいっ!」
ペコっと頭を下げた少女は、米粉団子が入った容器を大事そうに抱えて、笑顔でその場を立ち去った。
「さてと、じゃあ試作してみますか」
彼女からもらった籠にはそれほど大きくないカゴイモが5本ほど入っている。
まずは、少女が言っていた焼き芋からだな。
もちろんアルミホイルのような便利なものは無い。
だが、そのまま竈に入れてしまうのもどうかだし。
「石焼き芋にしてみるかな。適当な丸い石はあるかな?出来れば火に強いのが良いんだけど」
「それなら、魔法訓練所にある石はどうでしょうか。炎系の魔法訓練をするために下に大量の石を引いております」
「なるほど、それなら火には強いね。この鍋一杯持ってきてくれないか」
「はっ、お預かりします。おいっ、行くぞ!」
護衛に来てくれていた兵士のひとりが部下を伴って訓練所へと向かう。
「それじゃあ、その間に石を洗う用意だな」
桶に食器洗い用の水を入れていると、兵士が石の入った鍋を持って戻ってきた。
水の入った桶にそのまま石を入れてもらう。
桶に手を入れて洗おうとすると、先程の兵士が「自分がやります!」と率先して石を洗ってくれる。
綺麗に洗い終えた石を筵の上に並べ、風魔法で水分を飛ばして乾かすと、大きさにムラはあるがそれらしいものになった。
鍋に石を移して、竈に乗せる。最初は弱火で石を火に馴染ませ、強火にして石の温度を高くしたところで中火にしてカゴイモを2本入れる。
途中で何度かカゴイモをひっくり返して、中まで火を通す。
金串を刺して、すうっと入れば完成だ。
取り出したカゴイモを半分に切り、断面を確認すると、甘い香りが調理場に充満する。
「まずは一口」
少し冷ましてからカゴイモを少し切り分けて口に含むと、想像通りサツマイモの味がした。
これならいけそうだ。
横でそわそわしている兵士に一欠け与えると急いで口に入れる。
「う、うま、い、いいえ、大変美味しいであります!」
石焼カゴイモはお気に召したようだ。
さて、次はふかし芋を作ろうか。
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