第15話

街の散策を終えて城に戻って来たのは、夕刻のことである。


散々買い食いをした後だから、腹も減っていないが食堂へと向かう。


そこには父王と母、そしてふたりの兄が揃っていた。


「ジバ、遅いぞ。早く座るのだ」


父王に促されて席に着く。


兄はそれぞれ、騎士団長と監理部局長として国の重責に就いていた。


皆多忙な日々をおくっているのだが、出来るだけ晩餐だけは家族全員が揃うようにしているのだ。


兄達の親族はあのような形でそれぞれ弾劾されてしまったのだが、それでも未だ兄達を担ごうとしている古狸達が残っており、こうして可能な限り一緒にいることで、そういった者達を斥けてしまおうと、兄達からの提案があったのだ。


「今日は街に行っていたようだね。


久しぶりの街の様子はどう感じたかい?」


「はい、キャスバル兄さん。


炊き出しや元スラムの農場を見てきました。


街には活気がありますし、農場も順調そうですね。


炊き出しも王城の者や貴族が中心となって行っているのが、良かったと思います。


やはり、為政側の者は市井をよく知る必要がありますものね。」


「そうか、お前にそう言ってもらえると、やっている甲斐があるというものだ。


あれはスミセスの発案でな、お前が居たらきっとあのようにするに違いないと言い張りよったのじゃ」


「スミセスにも会ってきました。


すっかり市井に溶け込んでいましたね」


「ハハハ、確かにな。この前など泥が付いたままで城に戻って来たから騎士団の詰所の前で水を掛けてやったのだよ」


「まぁ、それほどまでにスミセスは市井のことを考えているのですね」


「結構なことなのだがな。


だが、奴も今は国の重鎮のひとり。


あまり出歩かれても問題なのだが」


父王の深いため息に全員が頭を縦に振っている。


国は徐々にではあるが潤いを取り戻しつつあった。


それはつい先程まで市井に居たばかりのジバは、肌に感じていた。


だが、魔物のスタンピードによる被害を取り戻すにはまだまだ時間が必要であったのだ。


壊滅した数多の村々、収穫もままならぬくらいに衰えてしまった広大な畑。


討伐に駆り出されてそのまま帰らぬ無数の働き手。


人口は以前の半数近くまで減ってしまったのではないだろうか。


地方においては、それすらも正確に推し量ることすらままならない状況が今も続いている。


なんとかジバの残した新しい田畑があるお陰で、国の体を保っていられるのだった。


暴動が起きてもおかしくない中で、スミセスの献身的な活動は、誰もが認めるものであるのだ。


だからこそ、王族一同は彼の心配をするのであった。



そうこうしている内に、メイドが料理を運んで来る。


王族が勢揃いする晩餐。


どれだけ豪奢な食材がならぶのか。


いや、目の前に運ばれて来たのは、米を主食として肉が入ったスープと野菜炒め。


ただ、それのみ。


「炊き出しと同じメニューですね」


地球の高校生であった裕也が好みそうなメニューにジバは顔を綻ばせる。


「そうだね。我々も同じメニューを頂くことにしているのだよ。


こうして、市井の者達と同じ物を分かち合うことで、彼等の目線に立って復興に向けて頑張ることにしたんだ。」


下の兄が、満面の笑みを浮かべながら、教えてくれる。


「ジバ、貴方が教えてくれたこの『お米』は、わたし達、いえ、この国を救ってくれました。


わたし達女性陣も、頑張って、この米に合う料理の食材探しと調理方法をいろいろ考えたのよ。


食べてみればわかるわ。


高価な食材を使わずとも、美味しく頂けるのよ。


もしかしたら、以前よりも食事が豊かになっているのではないかしらね。


ねぇアナタ」


「そうだ。お母さんの言う通りだ。


ありふれた食材でも自ら工夫することで豊かな気持ちを得られるのだな。


そして、この満足感を市井の者達と共有出来ることが、我々の心をより豊かにしてくれている。


これが為政者として在るべき姿なのだと、この歳になって教えられた心地だ。


さぁ、冷めないうちに頂こう」


食卓を囲む一同は両の掌をを胸の前で立てて合わせる。


裕也がしていた、食事前のお祈りだ。


これは米を初めて紹介した時にジバが教えたのだった。


「頂きます」


そう呟くと、一同がこちらを向く。


「頂きます…か。


それ良いな。これからはその言葉もお祈りに付け加えよう。


頂きます」


キャスバル兄さんが俺の真似をして目を閉じて呟く。


質素ながらも豊かな家族団らんが流れていた。




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