第14話
屋台でもらったお好み焼きのような物を食べ終わり、他の屋台を覗き込みながらテントへと向かう。
テントの入場にも安全性の確保のためか、人数制限が設けられており、整然と楽しそうな顔が並んでいる。
待っている子供達や保護者達の顔にも一様に落ち着いた笑顔が見られ、このイベントが長期に渡って継続的に実施されているのが分かる。
1舞台20分程度なのだろうか、3回ほどの入替を待っていると中に案内された。
「おや?」
入口で案内している者の顔を見て驚く。スミセスだ。
「こんなところで何をしてるんだ?」
「ジバ様、よくお越しくださいました。上手く運営できているか時折見に来るのですよ」
「スミセス、素晴らしいな。さすがは俺の先生だ」
「いえ、ここまで来るのには時間が掛かってしまいましたが。ただ『ジバ様ならこう考えられるだろうな』と考えながら改善していっただけです。
さあ、中へどうぞ。本日は隣国アズバン王国より猛獣使いを呼んでおります。
アズバン王国とはこうして演芸者を派遣し合いながら市民レベルの友好関係を築いております」
「さすがはスミセス。活用できる機会は逃さずというところか」
「お褒め頂き有難うございます。さあ中へどうぞ」
テントの中には大きな舞台が設えてあり、いくつかの檻が並んでいる。
そしてそこで繰り広げられた芸は、サーカスとまではいかないまでも十分見ごたえのあるものであった。
広場を離れ再び市井を練り歩く。
大通りから路地を抜けて元スラムであった広大な耕作地へと出る。
今は田植えを終えたばかりで、緑色の絨毯が所狭しと並んでいた。
それを横目にさらに進むと、耕作に従事する者達の家が立ち並ぶ。
俗にいう長屋とアパートだな。
この耕作地の開発と農業従事者の育成も、元々スラムに住む貧困者の対策として始めたのだが、今ではすっかりひとつの職業として定着しているようだ。
ただ極貧から抜け出せたと言っても、まだまだ貧しいことに変わりは無い。
元々、孤児であったり、手足の欠損等を抱えた生活弱者が多かったのだから、仕方の無いことなのかもしれない。
だが、悲壮感を感じないほどには生活を維持出来ているようだな。
この辺りは先に国有化しておいたのが正解だったようだ。
好景気で土地の売買が盛んになっているようだが、国有地であるこの辺りはその対象にはならずに済んでいるのだ。
もし地上げなどの憂き目にあってしまったりすると、元の木阿弥になってしまうからな。
今日は炊き出しの日でもあり、人影もまばらである。
「炊き出しは週1回行われております。その日はこの辺りの耕作地も休日になっております」
週休1日か。ここで働いている者達は、いわば公務員みたいなものだからな。
元々定休という概念がないこの世界では、定期的な休みを取れるというのは画期的なことなのだ。
出来れば国全体で週休2日くらいには持っていきたいところだが、まだまだ先は長いだろうな。
しばらくキャサリンと辺りを散策していると、手に食べ物を持った人達が戻ってきた。
どうやら小さな子供や老人、病気の者達へ持ち帰ったもののようだ。
帰宅した者達が交じった家の中からは朗らかな会話が聞こえてくる。
見に行けなかった者達へ食べ物を与えながら、見世物の話しでもしているのであろう。
どの家からも子供達の笑い声が聞こえてくるようであった。
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