第13話

ジバとキャサリンは広場で行われている炊き出し場に近付いた。


多くの市民がたなびく煙の周りに集まっている。


その間をようやく潜り抜けると、そこには大きなテントが1幕張られていた。


テントの周りには屋台のようなものがいくつか出されており、そのそれぞれが煙を立ち昇らせていた。


「サーカスのようだな」


「えっ、サーカスですか?」


「ああ、独り言だ。あちらの世界に行っている時に見た見世物小屋だな。様々な動物や奇抜な格好の演芸人がショーをしているんだよ」


「ショー...ですか。それなら同じようなものかもしれませんね。


あの中では大道芸をやっておりまして、市民の娯楽になっております。


無料で見れるのですよ。後で参りましょう。


さあジバ様、先に屋台で何か頂きませんか」


キャサリンに手を引かれて屋台のひとつに移動する。


「このコインを渡すと料理と交換してくれるんです。全ての家庭には家族全員分のコインが事前に配られているんですよ。


もちろんコインの売買は法で禁じられています」


「なるほど、不正に対する対策済みということか」


「ええ、もちろん、これで全ての不正が無くなるわけでは無いんですが、一定の効力は効いているようです


わたし達も頂きましょうか?」


そう言って2枚のコインを差し出してくる。


「コイン持っていたんだ」


「ええ、炊き出しがある日なので念のため持ってまいりました」


「じゃあ、頂くとするかな」


「ジバ様、あちらの屋台が人気一番なのですよ。あそこが最後列です。並びに行きましょう」


キャサリンに手を引かれ人ごみの中をすり抜けて列に並ぶ。


30分ほど待ったところで、ようやく屋台の前に辿り着いた。


幾つか見知った顔がある。城の侍女たちだ。


「キャサリン、いらっしゃい。はっ、ジバ様!」


「しっ、メリス、今日はお忍びなんだから、見なかったことにしてね」


「メリス、ご苦労様だな。皆の嬉しそうな顔は君達が作ってくれているのだな」


「ジバ様、有難うございます。」


嬉しそうに給仕をしているメリスから受け取ったのはお好み焼きのような食べ物。


クレープのように食べやすそうに紙に巻かれていた。


「なるほど、これなら腹持ちも良いし、いろんな栄養を摂れるわけだ。しかも食べやすくて美味い」


「そうなんです。歩きながら食べられるのも魅力です。だから一番人気なんですよね。」


「この屋台は全て城の侍女がやっているのか?」


「そうですね、交代で担当しています。それに貴族の皆様にもご協力頂いております」


「そうか。全住人対象なのも屋台形式にしてなのも、貧困層に対する配慮なのだな。

よく考えられている」


「スミセス様の発案と伺っております。スラムが無くなり、いくら景気が良くなっても一定数の貧困家庭や孤児は居ります。


そしてその中には施しを拒む者や他人の施しを横取りしようとする者もいるのです。


それを解決するための方法として考え付かれたとか。


ご本人は『ジバ様ならきっと、こうされるだろう』って仰っておられましたが」


スミセスはやはり優秀だ。


下手に貧困層や孤児院だけを対象にした施しなど、対象者の特定やその配布方法などを考えると、時間と金ばかり掛かるだけで効果が薄いのだ。


それよりも、全ての市民に平等に配布する方がよっぽど手間もかからず不平不満が出ずに済む。


自尊心などから施しを拒む者も、全市民が対象であれば、受けてくれるに違いないのだ。


そして城の者達が主催し、貴族に協力させるのも良いことだ。


貴族は少ないコストで王族に良い顔が出来るし、市民との垣根も低くなるやもしれない上に、国庫からの持ち出しも少なくて済むから、回数を増やすことも可能だ。


恐らくスミセスのことだから、災害時用の備蓄食糧の整理を兼ねているのだろう。


「さあ、ジバ様。テントの中に移動しましょうか」


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