第12話
翌朝、ジバが目覚めると、城は慌ただしい喧騒に包まれていた。
「ジバ様、お目覚めでしょうか?」
幼少期から俺の侍女を勤めてくれているキャサリンが部屋に入ってきた。
キャサリンは確か俺よりも4つほど歳上であったはず。
俺の侍女を探しが難航していた折、たまたまお母様に連れられて慰問に行った孤児院にいた娘だ。
俺が手を引いて、無理矢理連れて来たのだったな。
幼心に命を狙われているのを感じ取っていたのかもしれない。
お母様も孤児のキャサリンであれば、暗殺に利用されることも無いと思ったのだろう。
それから空白の7年感を含んでの12年もの間、キャサリンは俺のために尽くしてくれているのだ。
「キャサリン、おはよう。
また俺の侍女になってくれるのか?」
「はい、わたしはずっと、今までもこれからもジバ様の侍女ですから。」
ニコリと笑うキャサリンの笑顔が、俺の不安を全て吹き飛ばしてくれたようだ。
着替えを済ませ、食堂へと移動する。
少し寝坊したようで、食事が終わった家族の面々はそれぞれの仕事に向かった後であった。
「ジバ様、ご用意出来ました。」
キャサリンが持ってきてくれたのは、和朝食そのもの。
白い白米に梅干しならぬガズ干し、王国でも食されていた、焼き川魚。
ここに味噌汁や味付け海苔があれば完璧なのだが、そこまでは望むべくも無かった。
「ジバ様、本日はどのようにお過ごしになられますか?
陛下からは、しばらくゆっくりと静養すれば良いと言付かっておりますが。」
「そうだな、そうさせてもらおうか。
だが、俺もこの歳になるまでの大半を異世界で過ごしてきたんだよな。
こちらの世界では浦島太郎状態だから、まずはこちらの世界の『今』を覚える必要がある。」
「ウラシマ…ですか?」
「ああ、異世界に迷い込んだ男が元の世界に戻ってくると、何百年も経っていたという異世界の童話の主人公だ。
彼の場合とは大きく異なるが、俺には今のこの世界の常識が欠けているだろう。
だからこそ、しばらくは市井の事を学びたく思うのだ。
どうだろう、キャサリン。
一緒に市井を見て回らないか?」
「喜んでお供させて頂きます。」
キャサリンの顔が少しばかりあかくなったのに気付いたが、これは言わぬが花だろう。
「キャサリン、ずいぶんと活気が満ちているんだな」
「はい、ジバ様がスラムを農場にして下さいましたので、治安が良くなりました。
そして米のお陰で食料不足が解消されただけでなく、物価も安定したのですよ。
治安が良くなり物価が安定すると、悪徳商人には住みにくい街になったのでしょうか、黒い噂のあった商人達はどんどん王都から出て行ったようです。
今では王都のみならず、地方でも同様な状態に成りつつあり、王国から出ていった悪徳商人も多いと聞いております」
「それは良かった。どうやら良い方向に進んでいるようだね。
街の人の暮らしぶりはどうだろうか?」
「そうですね、ジバ様のお陰で、魔域の拡大も食い止められました。
ですが永い戦いの中で、働き手を亡くした者達も多く、必ずしも裕福な生活を送れているわけでもないのが現実です。
王城としても生活を扶ける為の施策はかなり打ち出されています。
ほら、あそこに見えている炊き出しもその一環ですね。」
大きな広場にたくさんの人々が集まっており、その輪の真ん中からは薄く煙が見え隠れしていた。
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