王国の再建
第11話
子供の頃に毒殺されかかった俺は、神により様々な世界の知恵と力を与えられた。
そして17歳になった今、再び神の啓示を受け、この世界に戻ってきたのだった。
王城から遣わされた馬車に揺られること30分。
到着した王城の門前には大勢の騎士達が並んて敬礼していた。
馬車の中から手を振りながら、その真ん中を通り過ぎてゆく。
後方からは感極まったのか、すすり泣く声が聞こえだし、それに触発されたのか、次第に大きな嗚咽となる。
そして次に聞こえてきたのは大歓声であった。
大歓声に背を押されて辿り着いたのは、王が政務を摂る天守楼の入り口であった。
ここで馬車を降りて、中に向かうのだ。
馬車を降りたところで懐かしい顔ぶれが目の前に現れる。
古竜と戦った時の中隊の部下であった騎士達である。
「ジ、ジバ様、よくぞ、よくぞご無事で……………
お帰りを心待ちに致しておりました。」
僅かに生き残った数名であるが、ジバにとっては初めての部下であり、彼等の潤む目を見ていると感慨が深く蘇ってくる。
「君達も元気そうで何よりだ。
あの時失った部下達は不幸ではあったが、生還した君達が元気であることが、供養になるだろう」
目にいっぱいの涙を溜めて天を仰ぐ彼らが過ごしたこの3年間は、俺には知る由もないが、その装備から見て取っても、決して不名誉なものでは無かったのだろう。
それだけが俺を安心させるのだった。
「さぁジバ様こちらへ」
懐かしい顔が続く。
俺の家庭教師だったスミセスだ。
今は改革担当大臣として相変わらず米作りを推進していると後で聞いた。
スミセスは涙を隠そうともせず、だが満面の笑みを湛えて俺の横に付く。
「参りましょうか、陛下とお妃様がお待ちでございます」
「スミセス、今戻った」
「はい、お帰りなさいませ」
スミセスと並んで庭園を歩いていると、やがて豪奢な扉に辿り着く。
「ジバ!ようやく戻ったのですね。
お帰り、わたしのジバ」
「お父様、お母様、遅くなりましたが、ジバ、戻ってまいりました」
「うむ、古竜討伐ご苦労であった。
さあ、母の元へ行ってやってくれ」
お父様である国王陛下に誘われて、母の元へと進む。
「あー、会いたかった。本当に会いたかったのですよ、ジバ。
貴方は神の使徒ですが、わたしの子供に違いないのです。
さぁ、もっと顔を良く見せて頂戴」
ぼろぼろと涙を落とす母を抱きしめる。
母子にはそれ以上の何も必要無かった。
父母と俺、少し離れたところをついてくる宰相やスミセス、その隣には騎士団長であるバジル兄上の姿もある。
恭しく頭を垂れる城の者に見送られながら、俺達は国王陛下の執務室へと移動していった。
「さて、先ずはお疲れ様だったな、ジバ。
神から啓示を受け、おおよそのことは理解しておるつもりだが、お前の口から教えてもらえるかな。
10歳の誕生日の晩からお前に起こった神の奇跡のことを」
「はい、あれは……………」
俺はこの世界からは想像もつかない文明が進んだ異世界での見聞きした体験から話す。
そして1年後、その知識を活かして米の生産を行い、当時問題となっていたインフレとスラムの問題を解決したこと。
そして1年も経たないうちに、また違う世界へと移動していったこと。
次の世界は群雄が割拠する戦国の世。
一騎当千の武将や戦術に長けた将軍、生き残るための知恵を授けてくれた軍師に戦いのための知恵と力をつけてもらったこと。
そして戻ってきたこの世界では、古竜による魔物の氾濫により、壊滅しかけていた軍を立て直し、古竜を退治したこと。
古竜との戦闘で疲れ果てた俺は再び異世界へと移動していったこと。
そしてこの世界にとって必要な新しい知識を得てきたこと。
それらは、こちらの世界では到底理解されないような荒唐無稽な話しばかりだ。
ジバがこの3年間に異世界で得た知識は膨大な量である。
この世界でもすぐに実施すべきものから、遠い未来にならないと実現不可能なものまでありとあらゆる万物に係わる知識であった。
だが、ジバにはそれら全てを実現するために必要な知識もまた備わっていた。
現代人の我々がそれを表現するとすれば『アカシックレコード』とでも呼ぶのだろうか。
この7年にも及ぶ期間に、自らに起こったことをひと通り話し終えたジバは少し後悔していた。
自分の話しはあまりにも荒唐無稽過ぎるのだ。
そんなものこの世界の人々に到底理解出来るはずも無かった。
「あっ、あの……」
静まり返った執務室。その重苦しい雰囲気に何か言わなきゃと思うジバだったが思わず言葉に詰まる。
「ジバ、よく分かったよ。
いや、実際には何も分かっていないのだろうな。
だがジバよ。お前が11歳の時にインフレとスラムを解決してくれたのは紛れもない事実であり、驚くべき能力で古竜を斃してくれたのも紛れもない事実だ。
そしてまた、神のお告げの通り、お前は戻ってきてくれた。
我々には到底理解のしようもない素晴らしい知識を持ってだ。
お前のことを疑うなどあり得ないだろう」
父王の優しい微笑みにホッと胸を撫で下ろし、辺りを見渡すとそこにいる皆の満面の笑みが父王の言葉を肯定しているとジバにはハッキリと分かった。
その夜、大きくなったジバの為に急遽用意された心地良い自室で、ジバは安堵の眠りについたのだ。
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