第10話
真っ白な光の中、ジバは目を覚ます。
何もない世界。
「またか」
ジバとしては3回目の体験となる不思議な空間。
「今度は真っ白な空間か。
神は次に俺にどんな体験を与えようと言うのか」
古竜とあれだけの死闘を行ったのも関わらず、ジバの体力は全快になっていた。
雲の上にいるような気分とでも言えば想像できるであろうか。
なんとなく身体がふわっと浮いたような感覚の中、下を覗くと街の光景が映し出されていた。
「ふっ、まるで鳥にでもなったような気分だ」
その見知らぬ街には大きな橋のようなものが見える。
山の中腹から始まるその石造りの橋はあまりにも長過ぎた。
多くの山を抜け谷を越えて、どこまでも延びるそれは、街の中にある大きな樽で終点を迎えた。
その樽に滔々と流れ込む水を運んできたのだ。
山からの距離はおおよそ50キロにも及ぶだろう。
樽からはいくつもの支流が生まれ、各家まで水を運んでいた。
どれほどの技術力があればこれほどの工事が出来るのであろうか?
そう考えたジバの脳裏にその水道橋に関する知識が止めどなく流れ込んできた。
施工に関する技術、測量に関する技術、そして材料を作るための技術。
それらをジバが理解した後、一面が真っ白に染まる。
「大した記憶力だ」
膨大な知識をものともせずに吸収した自らを自嘲するかのようにジバは微笑む。
しばらくして見えてきたのは下水道。
地面の下に埋まっているのだが、何故かジバにははっきりとその水路が見えるのだった。
各家から流れてきた汚水は、やがて一本の大きな流れとなり、郊外の集積場に集められる。
その中にはアウストラ王国にも存在する魔物スライムが大量におり、汚水を浄化していたのだ。
「雑食だとは知っていたが、このような使い方があったとはな。
まだまだ勉強が足りないな」
その後、場面は続々と変わっていく。
アスファルトで舗装された高速道路、コンクリートで出来た高層ビル、様々な商品や食料品が揃う総合スーパー、様々な階層の民が集まって議論する議会等、今のアウストラ王国には存在しない技術や仕組みを次々と吸収していくジバ。
≪ジバよ、エイルザイムを救うのだ。≫
真っ白な空間の中、突然ジバの耳に聞こえてきたのは老人のような嗄れた声。
辺りを見渡しても誰の姿があるわけでもなく、はっきりと聞こえる声だけが、直接頭の中に語り掛けて来ていることを気付かせた。
≪後50年もすればこの地に邪神が解き放たれるであろう。
これまでは我が阻止してきたが、最早限界も近い。
お前が倒した古竜も邪神の一翼であった。
お前が我の使徒であることを嗅ぎ付けた邪神により、お前を殺されかけたが、すんでのところで助けることが出来たのだ。
いくら我の使徒とはいえ、神ならざるお前は弱すぎるのだ。
ジバよ。お前には様々な知恵をこれまで与えてきた。
お前は強くない。だがこの世界を邪神に坑がえるようにするための知恵を持っているはずだ。
抗うのだ、自分の大切なものを守るため。≫
「ですが、神に抗うことなど本当に叶うことでしょうか?」
≪安心せよ。我がこの世界に干渉出来ぬように、邪神も直接干渉することは出来ぬ。
奴も使徒となる魔物を使うしかないのだ。
そして奴のエネルギーの元は人間の負の心。
この世界を発展させ、住まう者達の負の心を抑えれば、奴を抑え込むこともあるいは可能であろう。
ジバよ。お前がこの世界の覇者となれ。
そしてこの世界に負の心を増やさぬよう善政を布くのだ。
急げ、我がお前に干渉出来るのも後僅か。
国に戻れば、お前を王にしようとするであろう。
受けよ。王となり、改革を推し進め、善政を行うのだ。
良いか、猶予は50年だ。
失敗すれば、この世界は滅び、邪神の眷族や使徒の手に渡ってしまうだろう。
急げ、急げ、ジバよ≫
声が消えると共にジバを深く覆っていた白い靄は薄れていき、やがて目の前に現れたのは王都を囲む街壁であった。
「ジ、ジバ様!ジバ様でしょうか?」
「ああ、ジバだが、入れてもらえるかな?」
「は、はい、もちろんであります。」
あー、またこの反応か、今度はどれくらいの期間が立っているのだろうか。
もう3度目になるジバは、またかと笑みを浮かべる。
「ちなみにわたしが古竜を斃してからどのくらいの年月が経っているのかな?」
「はっ、はい、来月で3年になります」
「そうか、3年か。父上や母上、兄上はお元気だろうか?」
「はい、ジバ様が居られなくなって心配されておられるようですが......」
「そうか、そりゃ皆に悪いことをしているな。早急に城に向かおう。」
街壁を守る守衛と話し込んでいる間に、城に連絡が伝わったようである。
城に向かおうとしたところで迎えの馬車が到着した。
「お待ち致しておりましたジバ様」
馬車から降りてきた使者の意外な言葉にジバは驚く。
待っていたとは?
「王の夢枕に神が降臨され、ジバ様の帰還が告げられていたのです。
本日こちらに到着されることも」
「そうか、ではお願いする」
ジバは馬車に乗り込む。
静かに動き出した馬車は、真っ直ぐな道を進んでいく。
それは、これからエイルザイムが進むべき道を指し示しているかのようであった。
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