第7話

ガッン!ガッン!


激しい剣戟の音にジバは目を覚ました。


鼻をつく血の臭いが先程までのあちらでの戦場を思い起こさせる。


周りを見渡して彼はそこが暗闇の中で見ていた戦場とは明らかに異なることを感じ取っていた。


そう、目覚めたそこは兄達が戦っているはずの戦場なのだ。


辺りには死屍累々の味方の死体と大小様々な魔物の死体が散らばっている。


「味方なのか?何故こんな最前線に、突然……」


近付いてきた兵士が訊ねてきた。


この最前線に突如現れたジバを不思議そうに見ているのだ。


グルルルーーーー


そんなやり取りも魔物には関係無い。


狼の様な魔物の群れが物凄いスピードで襲い掛かってくる。


ジバは咄嗟に身を交わしたが、憐れ兵士は魔物の餌食と成り果てた。


兵士を喰らい尽くそうとする奴らもいれば、新たな獲物としてジバに狙いを定めた奴らもいる。




殺らねば殺られる



初めてのはずの戦場でジバは高揚していた。


飛び掛かってくる数匹に対し、何故か手にしている呂布の方天画戟を一振りすると、忽ちにして魔物達を肉塊に変えてしまった。


「やれる!」


10数キロもあるだろうその得物を軽々と振り回し、ジバは一瞬のうちに群れの全てを葬る。


高揚感に逸る気持ちを関羽の冷静さが抑えてくれる。


先程の兵士はここが最前線だと言っていた。


つまりこの前には味方は居ないはず。


「ならば、少し戦闘の勘を掴んでから下がるか。」


そう独りごちると、ジバは魔物で溢れかえる敵地へとひた走るのであった。





「お、お前は本当にジバなのか……」


「はいお兄様。ジバです。」


「3年前、自室で忽然と姿を消したと聞いていたが……これは一体?」


初めての接敵から4時間後、ジバは味方の陣に戻っていた。


将軍である上の兄に王家の紋章とジバの証である紀章を見せると、兄は陣幕に入れてくれたのだ。


「確かに面影はあるが…


しかしその身体は…、いや王家の紋章とジバの紀章が揃っている以上、疑うべきではないのだろうが」


「お兄様、ご無沙汰しておりました。


わたしの10歳の誕生日以来ですね。


キャスバル兄様とは11歳の時に屯田の件でお会いしましたが。


お元気そうで何よりです。」


「ジバ、お前この3年間どこで何をしていたのだ?」


「信じてもらえないかもしれませんが、どうやら神隠しにあっていたようです。


いづれとも知らぬ異世界の戦場を3人の武将となり、駆け回っておりました。


この武器もその内のひとり、呂布奉先という者が持っていた物です。


何故そうなったのか、何故この得物を持っているのかは分かりませんが。」


「……ま、そのことは置いておくとして、最前線にいる伝令からジバが無双していたと報告が入っているが」


「はい、どういうわけか、こちらの世界に帰還した折に、最前線に居たようでして。


苦戦しているようでしたので肩慣らし代わりに、少しだけ」


「少しってお前、報告では4時間以上戦っていたそうじゃないか。


お陰で前線を1キロ近く押し上げることが出来たとか。


全く、信じられんことだが」


1番上の兄バジルが頭を掻きながら苦笑している。


「とにかく助かった。


この1年ほど急に魔物が増えてな、はっきり言ってヤバかったのだ。


ジバのお陰で半年分は取り返せたよ。


英雄殿の誕生だな」


総大将のバジルの周りにいる者達の顔も明るかった。



「まぁ、とりあえず1回屋敷に戻ってこいよ。


お母様達も喜ぶだろう。


一息ついたらまた戻ってきてくれるんだろ、英雄殿」


「はいっ、総大将殿。


早い目に戻ってきますね」


お互いに顔を見合わせて微笑みあう、束の間の兄弟の再会もそこそこに、ジバはこちらの世界では3年ぶりとなる実家への帰還を果たすのだった。



久しぶりに戻った王都は歓喜に包まれていた。


伝令によりジバの帰還が先触れされていたこともあるのだが、3年前から始まった元スラムの農場化により、景気は大きく改善され街は著しく活気に満ちていたのだった。


「…ジ、ジバ…お、お帰り、お帰りなさい……ううっ……」


王妃アントワンの嗚咽は止まらない。


魔王シュミクトに支えられながら、すっかり大人びたジバの元へと駆け寄っていく。


「お父様、お母様、ただいま戻りました。


ご心配をお掛けして申し訳ありません。」


「よく戻ってきてくれたなジバ。


それもこんなに立派になって。すっかり見違えたぞ」



「はいっ、ご心配お掛けしましたが、無事に戻って参りました


お母様、ただいま……………、ただいま戻りました。」


「ほ、本当にジバなのね。良かった、本当に良かったわ


さぁ屋敷に入りましょう」


王城内にある自宅屋敷に戻ると、使用人一同が涙涙で迎えてくれる。


そしてその夜、魔王家が住まう屋敷は歓喜に包まれたまま、更けていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る