第6話
ジバには見えていた。
それは、考えられないような数の兵士がひしめく戦場である。
見たことも無い甲冑に身を包んだ雑兵達が命のやり取りをする中、大男の大き過ぎる身体が戟を一振りする度に周りにいる敵の雑兵を蹴散らしていくのだ。
その強さは一騎打ちでも負けることはあり得なかった。
呂布奉先
それが彼の名前である。
暗闇の中、ジバはあたかも自分が呂布になったかのような錯覚に陥っていた。
彼の一挙一動が身体に染み込んでくるかのように思える。
無敵の呂布は、周りの仇敵を次々と打ち破っていくが、彼には知恵が足りなかった。
親殺しと裏切り、異常なほどの強さを武器に無双する。
尋常な戦い方では勝てぬとした敵の計略に嵌り、遂に彼も囚われの身となっていまう。
そして天下無双の豪傑であった彼もついには屍を晒すことになるのだった。
呂布の死と共に、ジバの見る映像が切り替わる。
目の前には真っ赤に染まった水面が映る。
大河に浮かぶ数百の軍船が火に包まれ、水の上では80万人と号された兵士達の阿鼻叫喚に包まれていた。
悲鳴と怒号の中、呂布の愛馬である赤兎馬に跨った大男が川べりを山に向かって駆けて行く。
関羽雲長、その人であった。
もちろんジバが彼を知るはずも無かった。
だがジバにとって彼の一挙一動は呂布のそれよりも惹かれるものがあったのだ。
岩陰に潜む彼のもとにやってきたのは、敵の総大将である曹操孟徳である。
関羽の義兄弟である張飛達の追跡を逃れて命からがら逃げてきた曹操軍は、自領を目前にして、ついに関羽に捉えられた。
かつて曹操から受けた恩を忘れていない彼は、自らが負うべき罰を顧みず、曹操達を逃がす。
彼は自らの命よりも義を貫くのである。
関羽は戦術に長けていた。
戦場における臨機応変で巧みな用兵も、ジバを大きく成長させるものであった。
彼の最後は同盟国である呉の裏切りであったが、義を貴び、義に生きた関羽の姿はジバの心に強く残す何かがあったであろう。
関羽の死によって、またしても場面が変わる。
「お、おのれ諸葛亮!!どこまで我らを愚弄するか!!
将軍!我らに攻撃指示を!」
「待て!未だ早いぞ!待てば奴らは自滅する。
蜀の使者の話を聞いたであろう。
諸葛亮の食の細さよ。奴は病を患っておる。早晩にも死ぬはずだ。
こんな小賢しいまねも、焦りの証拠なのだ!」
陣に送り付けられた女物の着物を見て、憤慨極まる諸将を宥める男。
司馬懿仲達である。
ジバは司馬懿から戦略と死なない為の立ち回りを学ぶ。
臆病者、狼顧の相との謗りを受けながらも、戦乱の世を生き抜き、晋の礎を築いた彼は、ジバに戦略の有用性と戦場での狡猾さを教えてくれた。
そして司馬懿が戦場を離れると共に、ジバの周りは漆黒の闇に包まれたのだった。
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