第5話
「ほう、これは美味いな。これが麦を作った後の畑で作れるようになると言うのか」
「はい、お父様。これは王家の別荘の裏に自生していた稲というものから取れた実で米と言います。
これなら、収穫量は麦よりも少し多めになりますし、麦の後に植えることで今よりも丸々収穫量を増やすことが出来るのです」
「......ジバ、お前この知識をどこで?」
「実は、昏睡していた1年の間、夢を見ていたようなのです。
そこには僕よりも少し年上の見知らぬ世界の子供がいました。
彼等の世界は凄く進んでいて、僕達とは全く別次元でしたけど、彼が学習していた内容は僕達にも使えそうなものが多かったんです。
米は彼らの主食でしたので特に作り方や食べ方については学べたのです」
「うーん、そなたは以前より聡明であったが、幸か不幸か今の我が国に最も必要な知識を神から与えられたということだな。」
「ジバ、とっても美味しいわ。
特にわたしはこの『おにぎり』と言うのが気に入りました。
これなら戦場にいるあの子達にも届けてあげられるわね。」
自分が産んだジバを殺されそうになったのに、仇の子供達を気遣える優しさを持つ王妃を王が優しく抱き寄せる。
「ではお母様、このおむすびには何も入っていませんでしたが、おむすびの中に『ガズの実』を入れたものを用意します。
夢の中の世界では『梅』と呼んでおりましたが、我が国のガズがそれに近いと思いますので。
殺菌効果があって、日持ちがするようです。」
「殺菌効果というのはよく分からぬが、傷の化膿止めにもなるガズの実なら、そういった効果もあるやもしれんな。
ジバよ、料理長に調理方法を教えて、兄達に届けてやってくれ。
頼んだぞ」
「はい、お父様。早急に送ることにします。」
「うむ、それとスミセス!
この度の活躍、ご苦労であった。
この米というのもの、急いで栽培出来るように準備を頼む。
スラムの再開発については宰相に対応させる。」
「はっ、承知いたしました。
早速掛らせて頂きたく思います。」
こうして、ジバの発案による経済対策とスラムの浄化による治安の回復が進むのであった。
「うーん、米も順調に育っているね。
調理方法も覚えてるだけ全て料理長に教えたし。
この調子なら後数ヶ月もすれば、物価も安定するんじゃないかな。」
王達に米を試食してもらってから8ヶ月が過ぎようとしていた。
ここアウストラ王国は温暖な気候であり、あの後すぐにスラム跡地に植え始めた麦の収穫はとっくに終っている。
今はその後に植えた稲がすくすくと育っている状況だ。
麦だけでも市民の暮らしぶりはかなり改善された。
そこに黄金色の稲が大量に実りつつあるわけで、市民の期待も高まるばかりである。
スラムの住人達も住居と、農作という仕事を与えられた。
豊富な雇用確保は治安の安定を齎した。
元々の麦農家の中にも自らの麦畑の休畑期間に水田を始める者も少なからずいた。
王家は米の作り方すら、庶民階層にまで広めることにしたのだ。
これにより、最早買占めや売り渋りをする意味すらなくなり、早くも経済対策としての効果は出ている。
そして戦場においても、麦と米を作るようになっていた。
実はこれもジバの記憶である。
裕也が部活で学んだ戦国時代の知識が活かされた形だ。
それまでは兵站に割ける人数が限られている上に、山脈越えによる困難さ故の食糧不足が度々起こっていた。
ジバの献策により、輜重部隊を屯田に回した結果、既に麦の自給には成功しており、米の自給を待つのみとなっていた。
更に、ジバの指導による調理技術を持った調理部隊を常駐させることで、以前とは比べ物にならない戦時食になったことは言うまでもない。
全てが順調である。
その一番の立役者であるジバは、自室のベッドで惰眠を貪っていた。
未だ11歳である。
頭は働けど身体がついて来ない。
その代わりに元家庭教師であるスミセスが、全ての指揮を執っている。
全てが順調に回りだした今、多少の休息はジバにとって必要なものだった。
「て、天井が消える?」
朝の気持ち良い微睡みの中、突然ジバの周りから全てが消えた。
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