第4話
「先生、現状の危機的状況を考えると、冒険は出来ないよね。でもね、何かしなくちゃ改善されるどころか悪くなる一方じゃない?
とりあえず、稲を試食してみない?僕が調理してみるよ」
「さあさあ、早く」とせかすジバに手を引かれてスミセスは稲が生えているはずの王家別荘地にやって来た。
今年は保養どころではなかったため、別荘の周りは荒れ放題になっていた。
そして目的の水辺には、この前見た時よりもはるかに多い金色の稲穂が頭を垂れていた。
「うわあ、思ったよりも多いね。さあ収穫するよ。」
ジバはスミセスや護衛の者達に稲の刈り方や纏め方を説明していく。
いつもは魔物や敵の血を吸うばかりの剣も、今回ばかりはよく切れる鎌の代用に成り下がっていた。
スミセスは護衛達に指示を出しながらジバに教わったように稲を刈っていく。
それほど広くない水辺ではあったが、それでも10人ほどで2、3時間は収穫に要するくらいの量はあったのだ。
その間、ジバは近くの木工小屋にいた。
別荘の管理と様々な道具の修理をするための職人が常駐している。
「サムさん、ご無沙汰ですね。今日はお願いがあって来ました。
これから言う道具を作って欲しいんです」
暇そうにしていた職人サムはジバの顔を見て満面の笑みを浮かべた。
「ジバ王子、お元気になられたのですね。ご病気と噂に聞いていたんで心配していたんです。
ところで作って欲しいものって?」
「これだよ。こんな道具なんだけど作れるかなあ?」
「ふむふむ、こことここが鉄でこれが木ね。ここを縄で縛って、こうしてやれば、こうなるから....ああすぐに出来そうです。」
ジバが見せたのは馬車の中で書いた、足踏み式の脱穀機。
ここには馬車の補修に使う部品なんかもたくさんあり、それらを組み合わせれば作れそうな簡単な機構の物であった。
やがて静かだった別荘に喧騒が戻ってくる。スミセス達稲刈り組が戻ってきたのだ。
途中で護衛のひとりがリヤカーを取りに来ていたので、それなりの収穫があったのだろう。
結局リヤカーは10往復して、ようやく稲の収穫が終わったのは日も暮れる少し前であった。
「さあ出来ました。ジバ王子」
最後のリヤカーの到着に合わせたようにサムも脱穀機の完成を告げてきた。
「サムさん有難う。先生達も有難うございました。
じゃあ次はこの機械を使って、稲についている小さな身を取り出します」
ジバは脱穀の仕方を皆に説明する。ひと掴みの稲を脱穀機に乗せて足踏みするだけなので、すぐに要領を覚えた護衛達により、みるみる間に籾がこぼれてきた。
小麦粉を挽く時用のすり鉢を使って、籾がらを外すと、中から白い玄米が出てくる。
その玄米を拾い集め、次々と壺に入れていく。
そして米が6分目まで入った壺を抱えた別の護衛達が壺に入った米を棒で突いていく。
精米された米が次々と麦袋に入れられていき、全ての稲穂が無くなる頃には、米の量は20キロほどにもなっていた。
「さて、ロミおばさん、手伝ってくれるかなあ」
サムの伴侶であり、この家に住むロミはジバに教えてもらいながら米を研ぎ、大鍋に入れた米をかまどにかける。
蓋をしてかまどに火を入れると、ここからはジバの作業。
火加減と吹きこぼれ具合を確認しながら、炊き上がりをじっくりと見定める。
「うん、こんなもんかな」
何とも不思議な香りに後片付けをしていた皆が集まってきた。
「ロミおばさん、皆にこれを出してあげて」
既に完成していた鶏肉や野菜と共に、真っ白な米のご飯が並べられた。
「さあ、今日はご苦労様。一緒に頂きましょう」
米が好評であったことは言うまでも無かろう。
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