第2話

その日、ジバは眠りから覚めた。


喉が渇いた。起きてすぐに思ったことだ。辺りを見渡すが近くには誰もいなかった。


ベッドを降りようとする。だがやけに身体が重い。


1年近く昏睡していた彼の身体は硬直状態にあり、その固まった筋肉をほぐすためにはしばらくの時間が必要であったのだ。


1時間ほどベットで格闘していたジバであったが、ようやく手足首が動くようになる頃、扉が開いた。


「ジバ様!王妃様、ジバ様がお目覚めに!」


バタ!バタ!バタ!バタ!



「ジバ!ジバ!目を覚ましたのね!良かった!本当に良か.....」


お母様がボロボロと涙を溢しながら、僕の手を握って泣いている。


何があったのか見当もつかない。


「お母様、どうして泣いているの」


その声に王妃は満面の笑みでジバをじっと見つめる。


「ジバ、わたしの可愛いジバ。ようやく目を覚ましてくれたのね。あなたが眠りについてもうすぐ1年になるのよ。」


「僕は1年も眠っていたの?昨日10歳の誕生会だったよね?」


「そうよ、あなたはあの日から1年も眠っていたの。そうだ、明後日はあなたの11歳の誕生日だわ!誕生会の準備をしなきゃね。」


「キャサリン、スザンナ、すぐに誕生会の準備に掛かりましょ。まだジバは起きたばかりだから、あまり派手にはしないわ。


そう、ささやかにでもジバを心配してくれた皆とは喜びを分かち合いたいわ。」


「「はい!王妃様!」」


慌ただしい日常が始まった。昏睡していたジバはともかく、この1年間悲しみに明け暮れていた皆にとってはこの上なく嬉しい忙しさに違いなかったのだ。


その後、父親であるシュミクト王や国の重鎮達が次々とやってきてジバの覚醒を祝っていく。


ジバの知らないところで不穏な雰囲気が漂っていたのだが、この突然の慶事に誰も気付くことはなかった。


そしてジバの誕生会。


すっかり元気を取り戻し、父母に挟まれ座るジバの前には祝いを告げるための長い列が出来ていた。


王城では、ジバが昏睡していた1年間に様々な変化があった。


急速な魔域の拡大とそれに伴う強大な魔物の増加。


その上、魔域に飲み込まれた領土で生産されるはずであった食糧の喪失。


それらの不幸は、食糧不足による急激なインフレを引き起こしている。


また魔物討伐に向かい、還らぬ者となった大勢の働き手の喪失は、インフレと相まって都市のスラム化を拡げることとなっていた。


一刻も早く収束させるべき問題を抱えながらも、最愛の我が子の無事な帰還を祝うくらいの時間を持つことは神も許してくれるはずである。



「お父様、お兄様達は居られないのですか?」


「ああ、ふたりとも魔物退治に出向いておるのだ。」


「そうでしたか。お兄様達が危険な地で頑張って居られるのに、申し訳ない気持ちでいっぱいです。」


ジバは異母である兄達のことが好きだった。


歳の離れた弟にふたりとも優しかったのだ。


ただ、彼らの母親に問題があったのだ。


ふたりの異母はジバの殺人未遂の疑いを掛けられ、現在は幽閉の身である。



長く続く祝福の列が漸く終わる頃、ジバの11歳の誕生会は終わりを迎えたのだった。

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