第3話

 キュンってこんなにも良いのに。

 街を行きかう人達は、みんな彼氏がいて、なんで私は一人なんだろう。


「キュンはいりませんかー……。冷えた心にキュンはいりませんかー……」


 今度は、小さい女の子がやってきた。

「ねぇ、パパー! ‌このキュンっていうの欲しい!」


 連れていた父親らしき人も立ち止まって、こちらのキュンに興味を持ってくれた。

「しょうがないな。すいません、これっていくらですか?」


 小さい女の子が指したキュンは、特別製のキュンであった。

「はい! ‌こちらは1キュン5000円になります! ‌大人用のリッチなキュンです」


 父親は目を丸くした。

「……マリちゃん、これは少し高かった。違うのを買ってあげるからね」


 そう、子供に与えるにはこのキュンは高いのだろう。大人のキュンとはそういうものだ。


 なので、私は慌てて子供用の安いキュンを取り出した。

「あの……。こっちの子供用の小さいのであれば、100円からでもあります」


 小さい女の子は、私の手に持った安物のキュンを

 まじまじと見つめると、睨みながら言ってきた。

「お姉ちゃん、 私を子ども扱いしないでよ。私にだって、ちゃんと彼氏いるんだからね!」


 女の子は、小さな手についた指輪を見せびらかしてきた。

 おもちゃの可愛い指輪を指に何個もはめている。

 とても子供らしい……。


「子供用のキュンなんていらない! ‌パパー、行こう!」



 そう言うと、行ってしまった。


 取り出した子供用のキュン。

 これだって、立派なキュンなのに


 それにしても、あんな小さい女の子にも彼氏がいるなんて。

 私は生まれてこの方、ずっと一人。

 妄想の中になら、何十、何百と彼氏はいるのに。


 ああいうマセガキには、幼少期から濃厚なキュンをいっぱい与えて、キュン中毒にさせればいいんだ。

 キュンが無いと生きていけない体にしてしまえばいいんだ。

 取っかえ引っかえ彼氏作って、本当のキュンなんて知らないでいろ!


 はぁ。リア充は生まれながらにしてリア充か。

 こんなリア充だらけの街。

 放火魔のようにキュンを街中に、ばら蒔いてやろうかな。


 私がキュン売りなんてしているから、彼氏ができないのかな……。


 手に持った子供用のキュン。


 これでも立派なキュンであることを確かめたくて、キュン箱に擦り付けて燃やし始めた。

 キュンが燃える向こう側に幼少期に見た妄想設定の光景が浮かんできた。


 あれは、公園に遊びに来た男の子。


 ブランコに乗りたいと順番待ちをしていた私。


 ずっとブランコに乗っている子供たちに向かって、ブランコを譲るように掛け合ってくれていた。

 あの日のこと。

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