第2話

 誰もいない図書室の光景。


 私はカウンターの中に座っていて、となりに図書委員の先輩も座っている。


 互いに好きな本を読んでいる。


 ドアの外の、もっと遠くの方から、生徒たちの騒がしい声が聞こえる。吹奏楽部の練習する音も時折聞こえてくる。そんな音が次第になくなり。何の音も聞こえない世界になる。


 先輩の吸う息の音、吐く息の音。


 そんな音さえも聞こえてくるような、無音の世界。


 私と先輩はそれぞれカウンターの席で好きな本を読んで、本を借りに来る人が来るのを待っていた。


 誰も来なければ、ずっと二人きり。

 私と先輩しかいない世界。


 ひとたび意識すると、本に集中できなくなる。


 窓から斜陽が入りこむ。


 オレンジ色に染まる先輩の横顔。


 光の中では眩しくて、こちらの事は見えないだろう。

 そんな光を利用して、先輩の顔をそっと覗き込む。


 切れ長の目。

 長いまつげ。

 筋の通った鼻。


 優しい内面を、真面目な様相で隠すように包み込む眼鏡。

 切り揃えられた前髪。


 喋るときは、優しく動く柔らかい唇。

 その下には小さなほくろがあって、それがとてもセクシーに見える。


 全てが愛おしく感じる。

 この横顔を見ているだけで、幸せ。


 オレンジ色の日の光に包まれて。


 とてもカッコいい。こんな人と一緒になれたらいいのに……。

 段々と光がなくなり、暗くなっていく。


 暗くなると共に、私の視線気づいてしまったのか、先輩がこちらの方を向こうとしている。

 そう、そこでキュンの人が消えてしまった。


「今が大事なところでしょうが!! ‌私のキュンの火は今から燃えるところでしょうがー!!」


 そんなことを叫んでも、先輩の横顔の光景が戻ることは無かった。


 私は、一人、寒い冬空に戻された。


 キュン……。

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