第23話

 今日は依頼をこなす日だ。それもギルド直々のクソムズ依頼。対象はクソデカ蛇。名前は知らない。さぁ、私は後ろで見てるから、お二人さん張り切って行ってみよう!


 つーわけで、私たち三人はイノシシを狩っていた森へと入っていく。しばらく進んだ先、森の丁度中心部に大きな渓谷があって、その渓谷全体を巣としてデカ蛇は生活しているらしい。


「駆け出しから名立たる冒険者まで、多数の犠牲が出ている。勇者として、この魔獣を見逃すわけにはいかない」


 んー、レントはそう言うけどさ、例え魔獣だとしても、自然に居着いたものを人間のエゴで駆除するのは褒められた行為でないと私は思うけどね。え? 私も無秩序に眷属増やして生態系破壊してるだろって? 私はいいんだよ。野生動物みたいなもんだし。


 まあなんにせよ、私はレントについていくだけだ。ペットに決定権なんてないんだよ。悲しいね。


「過去一やべぇ依頼かもな。実物は見たことないが、嘘みたいな噂なら山ほど聞いてるぜ」

「僕は過去に一度戦ったことはあるが、できればやり合いたくない相手だ」


 流石の二人もビビってる。私は相変わらず、一人モノローグでおちゃらけているが、実際の所、三人の間には過去にないほど張り詰めた空気が漂っている。シドとレントがチュウをしたしてないと揉めていた時よりも深刻だ。ダイジョブそ? いつもみたいに余裕見せてくれないと私も不安なんだが。


「どんなの」

「あ? 噂か? ……例えば、飛竜を絞め殺して丸呑みしちまうとか、毒一滴で千人が死ぬとか」

「あながち間違ってはいないな。その噂は。あのサイズであれば飛竜の丸呑みも容易だろう。ただ、毒に関しては疑問が残る。そこまで強力ではなかったはずだが……」

「丸呑みはガチかよ!」


 飛竜を丸呑みって、相当デカいんじゃないの? 私が変身できる飛竜を参考にすると……マジか。蛇の胴の太さは、前世の電車よりも一回り大きいぐらいはありそうだ。


「さらに不安を煽るようで悪いが、どうやら特殊個体らしい。大きさはもちろん、未知の攻撃を仕掛けてくる可能性もある」


 へぇー大変そーね。ところで特殊個体の場合、私の『変身』ってどうなるんだろうね? その特殊個体に変身できるのだろうか? だとしたら、良いな。ちょっと楽しみだぞ。


 それからしばらく歩いて、ついに問題の渓谷が見えてくる。


「見た感じ、いねーな」

「被害報告は夜が多い。もしかしたら渓谷のどこかの洞穴の中で寝ているのかもな」


 私も二人に続いて渓谷を覗き込んでみる。深いねぇ。底が見えないってほどじゃないけど、落ちたら空中で走馬灯を三回は観れそうだ。


「ここに居てもしょうがねぇだろ。どうするレント? いったん降りるか?」

「ああ、そうしよう。……下にいてくれればいいのだが。戦闘の余波を考えると、できれば下で戦いたい」

「でもよ、どう下りる? まあ、足場にできそうなところは結構あるが、降りてる最中に襲われでもしたら……」

「そうだな。空でも飛べれば楽なんだが……」

「そりゃ楽でいいな。できることならそうしたい……ぜ?」


 え、何シド。こっち見んな。うわ、レントもこっち見た。こっち見んな。


 ……で、私が一番最初に底まで下りることになった。まあ、良いけどね。普段できることがないから何もしてないだけで、別に仕事がしたくないとか、そういうのはない。むしろ、何もしないことが申し訳なくなることもあるくらいだし。


 マントは邪魔なのでレントに預ける。そしたら私は背中の羽を動かして、文字通り裸一貫で渓谷を下りていく。


 飛竜になって二人を背に乗せて……とかできれば一番手っ取り早かったんだけど、ちょっと厳しい。なぜなら、渓谷は深さがあるけど、深さがあるだけ。幅はそこまで広くない。具体的には、飛竜となった私がギリギリ方向転換できるかどうか。


 そんなギッチギチに詰まった状態では、機動力が恐ろしく落ちる。死角になる私の真下からデカ蛇が飛び込んで来るという危険もあるしね。飛竜も余裕で丸呑みするみたいだし、そうなったら私に乗ってる二人共どもごっくんだろう。


 まだ昼であるため、陽の光は渓谷全体に行き届いている。私は順調に下り続け、ついに底へ足をつけた。


 さーて蛇さん? 迂闊な美少女野良吸血鬼が来ましたよーっと。食いではないけど味と食感には自信があるぞ。いるなら出ておいでー。


 ……うーん、無反応。寝てるのかな? だとしたら、その寝床を見つけたいんだけど……。


 私がそう思ったその時、何かが這いずる音がした。


 私は音のした方向へ振り向く。


 私の背後のにあった洞窟。そこから見上げるような大きさの蛇が、かま首をもたげていた。

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