第22話

 翌日、予定通り国王の所へ行く。


 国王はやはり、というか当然というか、獣人の大男だった。少し不思議なのが、見た目がものすごくライオンであることだ。


 シド含め、私が見たことある獣人はかなり人間に近い見た目だ。普通の人に耳や尻尾などが付いている感じ。でも、国王はどう見ても二足歩行するライオン。大きな口や鋭い牙、たてがみ。人間とは大きく違っている。


 魔獣と言われても全く不思議はない。てか、え? これなら私の方がよっぽど人間っぽい見た目してるぞ? でも、私は魔獣で、この人は獣人で。んでもって、私は勇者のペットで、この人は国王なんて立場にいるわけだ。世の中って理不尽。


 国王は見た目通りの豪快な性格だった。ガッハッハって笑うタイプ。私に興味を持ったようで色々質問してきたのだけれど、めんどくさいから黙っていた。てか、なんか質問されても答えられないし。


 吸血鬼は伝説伝説って、色々知りたい気持ちも分かるけど、本人だって何にも分かってないのよ。自分が自分を完璧に理解できているなんて、そんなことはあり得ないんだぜ? ……私良いこといったなぁ。深い。


 私が黙ってコミュニケーションを放棄するもんだから、そのしわ寄せはシドとレントに行く。フハハハ、国王様の御前では、私をおおっぴらに叱ることもできまいて! 慣れない敬語でしゃべるシドは面白いなぁ。


 そんなこんなで私が黙っていれば、国王の興味はシドに移った。シドもなんか珍しい種族らしいしね。黒狼族だっけ。


 話はヒートアップしていく。ちなみに私は「おぬしは、黒狼族か?」と国王がシドに話しかけたあたりから聞いてない。つまりは最初っからだね。


 なんかよく分からないけど、国王は二言目には手合わせを要求してくる。その度にシドはのらりくらりと躱し、従者の人も国王を咎める。


 この国王が、聡明な頭と言うよりは、その屈強な肉体で国王に上り詰めたタイプであることは疑いようがない。そういえばシドが獣人は強さを重んじるって言ってたな。この国王が特別というわけではなくて、獣人国は代々そうやって国王を決めているのかもしれない。


 私がそんなことを考えていた矢先、国王からまさにその話題が出た。


「しかし、丁度いいところに来たな。少し先にはなるが、今年の末。国内で一つ、大きな祭りがあるのだ」


 そこから国王が語ったことは、私の予想通りの内容だ。


 十年に一度の、国内の猛者が集まって、本気で殺し合う力比べ。勝者にはそれに見合った栄誉、国王の座が与えられるという。


「で、あれば手合わせしても問題あるまいな?」


 国王アンタもでんのかい。強そう。……っていうか、強いから国王になったのか。


 結局、出場するかの返事はシドとレントがまたのらりくらりと躱した。しばらくここに滞在する予定ではあるので、もしかしたら出るかもしれない。そんな風に。


 城を出ると、日はほぼ落ちている。国王、全体的に話がめっちゃ長かった。退屈するとほんとに欠伸ってでるんだなぁ。流石にまずいかなって我慢した私を褒めて欲しいわ。……真面目に聞けと説教するのは無しね。


 城から宿までの道を歩いていれば、夜に私がぶっ叩いた石像が見えてくる。結局これは誰なんだ? あの国王の若い頃? でも、顔はめっちゃ人間なんだよなぁ。耳とかも全然違うし。


「シド、夕飯はどうする?」


 レントがシドにそう聞く。私には聞くだけ無駄だからね。


「ん………………ああ、そうだな。昨日のイノシシ、まだ余ってるか?」


 真剣を通り越して深刻と言えるような顔で、シドは悩んだのちにそう答えた。シドはホント、飯のこととなると熱意が凄いな?


 シドのリクエストで、今日はイノシシのステーキだ。うん、うまい。


 

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