第21話

 シドとレントが帰ってくる夕方頃まで、私は無秩序に眷属を増やした。命令は与えず、みんな自由行動させておく。増やすだけ増やして面倒見切れないから野生に返す。あれ、字面だけ見るとすっごい最低な奴だな? まあ、私は人間じゃなくて野生動物みたいなもんだしいいか。野生に目を向ければ、産んで後は放置なんて珍しくもないよね。


 それからシドとレントが帰ってきて、依頼をギルドへ報告。達成報酬を受け取って夕飯。今日はお店じゃなくて、レントの手作り。余分に狩ったイノシシ肉でお鍋だ。おいしいね。港町で買った酒にも合うわ。


 明日は王様に会いに行くので、レントはもちろんシドも飲まなかった。全く、二人とも真面目過ぎないか? 私は気にせずガンガン飲むからな。


 満足に飲み食いして、宿に戻って就寝。


 さて深夜。ふと思い立った私は眷属たちと感覚を共有してみる。おお、ここからでも、森の様子が分かる。ってことは、結構遠くまで有効範囲なのね。


 あー、うん? 眷属は半分以上死んでるな? ……まあ、茶色と緑で溢れる森の中で、真っ白赤目になったらそりゃ目立つか。特にこの世界では魔獣という危険な奴らもいるわけだし、いい餌でしかないだろう。眷属化させたからと言って身体能力が上がるわけではないし。


 しっかし、なんか眠れないな。


 普段は寝ようと思えば眠れるんだけど、今日はどうもそれがうまくいかない。


 なんかそわそわするというか、たぎるというか。……いや、心当たりは何となくあるんだけどさ。


 恐らく、さっき血を大量に吸ったことが原因だろう。


 小さい獲物ばっかりだったし、吸い尽くすまでは吸ってない。一匹当たりから吸った量は少量だ。虫なんて一滴二滴とかそんぐらいだろうし。……そもそも、虫のアレって血液扱いなのか? まあいいか。


 吸った量は少なくても、数が多かった。ちりも積もれば山となるってね。あと、私の体が小さいのも影響しているだろう。ほら、カフェインとか、年齢とか体重によって影響が大きかったりするじゃん? それと同じだと思うんだよね。


 今、適当にカフェインで例えたけど、実際効能が似ている気がする。この感覚は、半日で魔剤四本キメた時と同じ感覚だ。多分私が色々耐性スキルを持っていなければ、今頃頭が締め付けられる感覚や吐き気とか、あの視界がほんの少し薄暗く狭まる感じとか、そういった悪影響も出ていそう。


 あーダメだ! じっとしてられない! なんか、足が脈打つというか、ムズムズしてきた!


 私は宿屋を出て、空へと飛び立った。いい満月だ。もしかしたらこの月も影響しているのだろうか? 知らんけど。吸血鬼のことなんて知らん事ばっかりよ。


 うん。明確に体が軽い。いつもとは明らかに飛行速度が違う。


 視界もクリアだし、耳もよく聞こえる。もしや今なら、山を割ることも容易いかもしれない。お、ちょうどいいところに石像があるな? 台座に何やら書いてある。なになに、……うーん、字が読めん。


 石像は某少年に大志を抱かせたがるおじさんと同じポーズをしている。いいね。その伸びた腕、この私が力試しに折ってやろうじゃないの。


 よーし、それじゃあいくでガンス! せーの……フンガァ!


 結果、私の腕が折れた。やるじゃん(?)。


 てか、この石像もしかしたら偉い人のだったりするんじゃないか? 町の中心部に建てられているわけだし。よく見ると頭にはシドと同じような犬耳が付いている。ここは獣人の国なわけだし、こりゃ初代国王とか、勇者とか、需要人物説が濃厚だな? 


 つまりはもし私が壊していたらそれはもう大変なことになっていたわけだ。壊すのはやめておいてやろう。……へっ、命拾いしたなぁ! 私が。


 本気で石像殴ったらスッキリしたし、レントが騒ぎ出す前に帰ろっと。


 私は来た道をまた飛んで戻り、こっそりと宿の部屋に戻る。うん、流石レントだ。起きてないし、起きる素振りもない。


 よーし、それじゃあ私も寝るとしようか。

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