第20話

 昼食兼夕食として、酒場へ。今日はもうこのままゆっくりする流れか。


 あ、そうだ。なら今のうちに私の服買いに行かない? 国王様の前に全裸は色々まずいでしょ。


「服」

「拭く? んだよキュウ、酒こぼしたのか?」

「ほらキュウ。これを使え」


 おいコラお馬鹿ども。私は酔ってないぞ。酔っ払いの言う酔ってないは百パーセント酔ってるけど、私に限って言えばほんとに酔ってないぞ。


「服」

「ちょっ! キュウ、レントのやつ使えって! 俺の服で拭くな!」

 

 拭くじゃなくて服だというアピールにシドの服の裾を掴んだら、話がややこしくなる。こりゃだめだ。


「こぼしてない」


 まずはそもそもの間違いを正していく。私が酒をこぼすはずがない。てかさ、万が一酒をこぼしたとしても、普通犬のようにペロペロと舐めとるよね? 酒だってタダじゃないんだ。拭くなんてもったいない。


「んじゃあ、何を拭くんだよ?」

「……ああ、衣服か」

 

 そうそうレント。確か前に、獣人の国なら、つまりたった今着いたこの国なら私に合う服があるって話してたでしょ?


「……ああ! そういやキュウ、お前全裸だったな!」


 シドうっさ。大声を出すな。しかも大声で全裸とか言うな。


 とはいうものの、私もシドのことをとやかくは言えない。正直言うと私もね、自分が全裸だって忘れてることの方が多い。もう慣れちゃったのよね。いちいち呼吸していることを意識しないのと同じだ。


「んまあ、今日じゃなくていいだろ。もう酒も飲んじまったし、今から服屋探すのはだりぃぞ」


 たしかにー。明日以降でいっかー。あははー。


 思う存分飲み食いして、宿屋に行けばレントが取っていた部屋は二つ。


「ほら、シド。お前の部屋のカギだ」

「おう」

「じゃあキュウ、行こうか」


 何も言うまい。


 その後レントとベッドをともにしたが、若い男女が二人。当然何も起こるはずなく。


 レントはベッドに入るとすぐ寝ちゃうからね。基本的に夜更かしもしないし、生活リズムが本当に小学生なのよ。若いってかガキとロリなのよ。


 翌朝、まずは冒険者ギルドに行くことにした。


「へぇー、こんな魔物がいんのか」

「これは……いいな」


 男二人は掲示板を見てキャッキャしてる。私は冒険者じゃねぇのでここで不貞腐れている。はよ。はよはよ。


 それから私たちは冒険者ギルドのマスターと話す。


 私には関係ないのでちゃんとはきいてなかったけど、多分「ようこそ! 最近色々物騒だから、たくさん依頼をこなしてくれ! あと高難度依頼を直々にお願いするかも! そん時はよろしく!」って感じだろう。


 それから二人は適当な依頼をいくつか受けて、冒険者ギルドを後にする。


 そして念願の服屋! サヨナラ全裸。こんにちは文化的な生活。やったぜひゃっほい。


 んで。


「おい、キュウ。ホントに買わなくていーのかよ」

「いい」


 十分後。私は全裸にマントのまま、服屋を出た。


 理由は単純。服がとにかく可愛くない。


 別にさ、お姫様みたいなフリフリドレスなんて求めてないけどさ、リボンの一つくらい付いててもいいんじゃないかな? せっかくかわいい顔と体を手に入れたのに、服があれじゃあ台無しだ。一番マシなのが、うんこ色のワンピース。それ以外はズボンとかばっかりだから論外。品揃えがうんち。


「僕は、今のままで良いと思うぞ」


 変態は黙っとれ。


「獣人は男も女も、強くたくましくって思想があんだよ。それが本能みたいなもんだな」


 獣人のシドがそう説明してくれる。あっそ。だからって可愛い服が無い理由にはならんやろがいっ!


 次は国王様に会いに行きたいのだが、流石にアポなしで突撃するのはまずいだろう。と言うことで、今日はのところは、明日のお昼ごろに伺うという約束の取り付けに留めておいて、残りの時間はシドたちが受けた依頼をこなすことにした。


「んじゃ、俺たちはここらでイノシシ狩ってくっから、キュウはおとなしくしておけよ」

「何かあったら、そうだな、飛竜にでも変身してくれ。その方が見つけやすい」


 はいはい。行ってら。


 私は暇なので、そこらへんの野生動物を追いかけ回してなんとか捕まえて、『吸血』をして眷属を増やしまくる。お、蜘蛛も眷属になった。虫もいけるんだコレ。……ただ、サイズ的に『吸血』クソムズイな。前世よりは全体的に虫のサイズがでかいけど。あ、アリ潰しちゃった……。


 途中、またネズミを眷属化して、仲間を呼ばせて、片っ端から眷属化。自分で追いかけ回すより、こうやって呼び寄せた方が効率いいね。


 眷属を増やした理由は特にない。暇だから。


 森の色々なところの情報が入ってくるのは面白いな。……ところで、これ普通の人間だったら頭茹であがるんじゃなかろうか。情報量の暴力って感じ。文字通りの暴力。


 まあ、感覚共有切ればいいだけなんだけどね。こうしてすべての情報を受け入れるのも、なんか全知全能になったみたいで楽しい。……いや、分かることと言ってもこの森のことだけで、まさに井の中の蛙であるわけなんだけど。

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