第13話

 二日目の朝。雲一つない、気持ちのいい朝。


 起きてきたレントが朝食を作り、それを食べたシドが休憩に入る。見張りの交代だ。


「キュウは休まなくて大丈夫か?」

「大丈夫」


 いざという時、休憩中のもう片方を呼びに行くとか、そういう仕事なら私でもできると思うんだよね。


 もっとも、そんな状況ない方がいいに決まってる。というか、あっては困る。だって、シドとレントが二人で挑まないと危ない敵なんて来てしまったら、このお船は壊れてしまうのではないかと私は思うんだ。


 海の危険な魔獣ってなんだろうね? イメージで言えばやっぱりサメとか、イカとかタコとか。凶暴なイメージはゼロだけど、クジラも強そう。


「まる一日も船で進めば、人間の生活圏からそれなりに離れる。ここからは魔獣たちも増えていくだろうな」


 レントは軽く剣を振りながらそう言った。


 結論から言えば、レントのその言葉の通りに、その日一日は大変な日になった。


 シドとレントが交代して、時間で言えばお昼の少し前くらい。初めての魔獣の襲撃があった。


 襲ってきた魔獣は、カモメのような鳥の大群だった。


 一見すると普通の見た目だが、その口を開くと鋭い牙がぎっしり。その鋭利な牙に私の右腕と左わき腹が持ってかれちまったぜ。


 レントは足に風の魔法をまとって、まるで空中に足場があるかのように飛び回りながら、ザクザクとカモメの魔獣たちを一刀両断。流石だ。


 カモメの魔獣は魔法も使うことができた。翼から風の刃を飛ばしてきたり、口から水のレーザーを発射してきたり、遠距離攻撃も多彩だ。それらの魔法によって、私の頭が綺麗に斜めに切断されて、腹に穴も開いちまったぜ。


 レントは土の魔法で壁を召喚したり、属性は分からないけど何かの魔法で透明な障壁を召喚したりして、なるべく船体に被害がでないように立ち回っていた。完璧な対処と言えるだろう。


 カモメの魔獣は、必殺技のようなものを持っていた。複数の個体が同時に魔法を使用することによって、天気が変わる。これまでの快晴が嘘のように、どこからともなく黒い雨雲が集まってきて、一瞬で嵐へと変わった。私が激しく揺れる船の甲板に立っていられるはずがないよね。グッバイお船。絶対追いつくから安心してくれ。


 レントは何かを何かしてカモメの魔獣たちを倒した。え? 何したのかって? 私には分からん。だって海に落ちていたから見てないんだもん。


 っと、それよりも、あんまりちんたらしてると船に置いてかれる。もう戦闘も終わったみたいだし、戻ってもいいでしょ。


 私は懸命に羽を動かして、荒れ狂う波から何とか脱出。空は次第に晴れ間が広がっている。術者のカモメの魔獣たちがやられたからだろう。


 船って意外と速いのね。そんな時間経ってないと思ったけど、結構離れちゃってるわ。


 想像よりも前方にある船に焦りを覚えて、こりゃちょっと急がなきゃまずいなと思ったその瞬間。私に電流走る。……いや、マジで。文字通り。


 消えゆく嵐の最後っ屁。雷が私に直撃した。もう体ボロボロだってのに全身やけどまで追加。まさに踏んだり蹴ったりよ。


「キュウ。船内に居てくれないかキュウ。なあキュウ。頼むキュウ」

「うん」


 うん。今回の戦闘で分かったけど、想像以上にアカンかもしれない。ダメージはないけど、そういう話じゃないわコレ。色々ダメだコレ。色々。


 船内に入ると、船員の一人とばったり遭遇。


「お嬢ちゃ……おい……え……ちょ、誰か救急箱!」


 あー、なんかこういう反応新鮮だなぁ。レントもすっかり慣れちゃったからねぇ。


 私は慌てふためく船員の前で傷を治して、ドヤ顔してから割り当てられた休憩室に入る。ドッキリ大成功ってね。


 休憩室に入ると、ベッドで上半身をだけを起こしているシドと目が合った。


「おう、キュウ。どーした?」


 シド起きてんのね。てっきり寝てるかと。さっきの騒動で起きたのかな? 嵐の時とか、かなり揺れが酷かったし。


「戦力外通告」

「だろーな」

「想像以上に、だめ」


 レントは、シドを呼ぼうとはしなかった。つまりはその程度の敵だったわけで。この程度でこのありさまであるならば、より強敵が出た時にどうなってしまうのか。多分原型を留めることは不可能だろう。私が。


「二日目にして、ようやく一悶着あったみたいだな」

「そう」

「おかげで完全に目が覚めちまったよ」


 そう笑う割には、まだ少し眠そうだ。無理もない。ずっと休みなしで見張り番をしていたのだから。


 今日の朝にレントと交代して、昼前くらいに魔獣の襲撃。今は昼過ぎくらいだろうか。時計がないから、なんとなくだけど。


 せめて夕方くらいまでは寝ていないと、シドの体力は回復しないだろう。睡眠の環境も、どちらかと言えば悪い方だし。


「寝な」

「んなこと言われてもなぁ……」

「寝な」

「俺は一回目が冴えるとなかなか……」

「寝な」

「…………」

「寝な寝な寝な」

「分かった分かった! 分かったからよ……」


 全く、しっかり休憩しとかないと力が出ないぞ? って、私が言っても色々と説得力がないんだけどねHAHAHA!


 さて、どうしようかな。寝なと言った以上、私からシドに話しかけるのは変だし、かといって暇を潰せるものも何もない。ドキドキ☆船内探検ツアーもやぶさかではないが、ここが人様のお船であることを考えると気が引ける。


 寝るか。私も。


 部屋にはベッドがちゃんと三つあった。昨日、レントはあっちのベッドを使っていたし、シドは今そっちのベッドを使っているし、必然的に、残りのこのベッドが私のベッドってことになるだろう。


 うーん、流石に宿のベッドに比べると固い。ただまあ、私は眠らないだけで、割とどこでも眠れる。眠れないんじゃなくて、眠らないだけ。ここ重要。


 改めて考えると、私って衣食住全部いらないな? それでいてかわいいって、ペットとして完璧すぎるだろ。ある意味生物の頂点でしょこれ。

 

「なあ、キュウ」


 なに、ビックリした。私が必死に自己肯定感高めているときに何の用なのシド?


「お前は、レントのこと、どう思ってる」


 え、何、修学旅行か? シド酔ってんの?


「普通」


 どうって言われても、普通。好きか嫌いかの二択なら好きだけど、色々と恩があるし……色々って言うか、何から何まで恩しかないけど。


「俺はレントのこと好きだぜ」


 知ってるよそれは。なんだよのろけ話かよ。はぁー、寝よ寝よ。


「アイツのおかげで、ここまでこれたわけだし」


 まあ、あの奴隷生活の頃に比べたらすごく自由ではある。


「最初はちょっと変な奴だと思ったけどよ、最近は結構頼りになるっつーか」


 シドも十分変な奴だけどね。このメンバー内でまともな人間なんて私くらいだろう。……あ、違う。私は人間じゃなかった。


「ほんと、俺たちアイツに拾われてよかったよな」

「言えば」

「ば、馬鹿! こんな恥ずかしいこと、直接言えるわけねぇだろ。だからさ、なんつーか、キュウからそれとなく……」

「寝る」

「え? あ、ああ。……おやすみ」


 結局のろけ話かよ。あー鳥肌立つわ。くわばらくわばら。寝よ。



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