第12話
一日目。魔獣の襲撃は全く無しで夜を迎えた。
「おいキュウ、レント呼んできてくれ。流石に一日中寝てれば落ち着いただろ」
おっけー。夕方ごろに具合を見に行った時はだいぶ顔色も良くなっていたし、多分動けるくらいには元気になってるんじゃないかな。
ギィギィと音を立てながら木の階段を降りて船内へ。休憩用に割り当てられた部屋に入る。
「レント」
「……ああ、キュウか。迷惑をかけたな」
「呼んでる」
「シドが? ……そうか、そろそろ飯を作らないとな」
そうだね。シドには是非たらふく食わせてやって欲しい。朝から飲まず食わずでずっと魔獣の警戒をしていたのだ。意外と真面目だよね。
「大丈夫?」
「ああ、もう動けるくらいには落ち着いてきた。……っと」
多少ふらついているが、顔色は良い。本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。
私は後ろのレントを気にしながら来た道を引き返し、シドの元へ戻る。
「おいレント! 今すぐ飯を作れ! こっちは腹減って死にそうなんだよ!」
「本当に申し訳ない。すぐ準備するから、少し待っていてくれ」
レントはそういうと、空間から調理台を出して器具を出して食材を出して、あっという間にキッチンを完成させた。手際よく食材を処理していく。
「キュウも腹減ったよなぁ?」
「別に」
私に腹減りの概念はない。私自身、食へのこだわりもないし、餌代のかからない優秀なペットだと自負している。
「……そういや、キュウって何を食うんだ?」
いやいや、シド? 私たち同じ釜の飯を食った仲だろ? 普通だよ、そんな珍奇なものは食べないぞ……って思ったけど、私って何を食べるんだ? 正確に言えば、吸血鬼は何を食べるべきなんだ?
ニンニクはダメとかよく聞く。とは言っても、私の現在の肉体にダメな食べ物は存在しないけど。パンでも石炭でも、何でも食べられる。
「やっぱ血か? 伝承では、伴侶と認めた人間の血を吸うと覚醒するとか聞いたことあるけどな」
なんだそれ。ラブパワーでパワーアップってか。ゼロに何をかけてもゼロだからね、覚醒とか興味もないわ。そもそも伴侶がいねぇし。
「……今夜、レントの血でも吸ってみたらどうだ? 俺は気づいてないフリしてやるからさ」
嫌だよあんな変態の血。……待てよ、私も幼女好きだから望んでこんな外見を手に入れたわけだし、同族? 純血ってこと?
「変態サラブレッド……」
「は? なんだ、マジで意味分からん」
つまり私とレントが子をなせば、変態サラブレッドが誕生してしまう。それは絶対に避けなければいけない。世界のために。
「二人とも、料理ができたぞ」
あ、はい。
んまあ馬鹿話はこの辺にしておいて、今はレントの料理スキルを確認するとしよう。
「ああ、そうだ。シド、酒は何を飲む? 一通りあるぞ」
「あ? ……今日はいいよ。俺が夜も見張ってるから、お前は休んどけ」
「シド……」
「ほら、料理が冷めちまう! 早く食うぞ!」
お熱いねぇー! 料理は冷めても、二人の仲は冷めないってか? 見ているこっちがヤケドしちまうぜ!
……さて、まずは野菜の入ったスープから。……うん、おいしい。
次はメインのステーキ。……うん、おいしい。
ドレッシングのかかったサラダ。……うん、おいしい。
結論、おいしい。アカン、馬鹿舌過ぎてそれ以上の感想が出てこないわ。
言い訳すると、前世は超絶ド貧乏一人暮らしがクソほど長かった。おいしいとかじゃなくて、食べられるか食べられないか、って基準で生きていたからね仕方ないね。
「うめぇ……! 店で食う奴より、断然うめぇ!!」
シドは大喜びだ。へー、そんなにおいしいのか。レントも嬉しそうだ。
「キュウはどうだ?」
「おいしい」
「あのなぁ、キュウ。うまいなら、もっとうまそうに言えよ。んな無表情で『おいしい』ってよ。もっと笑え笑え」
なにそれ私の真似? ゼロ点。かわいさが足りん。てか、シドって酒とか関係なく、飯のことになるとテンション上がるんだな。ウザ。
「……ところで、キュウは何を食べるんだ?」
レント、その話もうやったから。
「やっぱ血だろ? 吸血鬼って伝承によってバラバラだけどよ、血を吸うってことだけは絶対に一致してるし」
「確かにそうだな。『吸血』と名前に入っているくらいだし……試しに、どうだ」
どうだじゃないが。私が「じゃあ、ちょっと失礼して……」なんて言いながら、その差し出された右腕に噛みつくと思うか?
「おいおい、そういうことは俺がいない時二人でやってくれよ」
あとさっきから、シドは吸血を性的な感じにするな。余計に変な意識を持っちまうやろがい。
結局、私だけ酒を飲んで、酔えず。お腹いっぱいになって船酔いしたレントを休憩室まで介抱する。
『吸血』ねぇ……。スキルはあるし、今度適当な魔獣で試してみようか。私はともかく……相手にどんなデメリットがあるのか分からないし。
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