第11話

「お、あれじゃねぇか?」


 シドがそう言って指さす方向には、そこそこ大きなお船が浮かんでる。


「そうだな、よし。僕が話をしてくるから、二人はここで待っていろ」


 あいあい、行ってら。


「んで、キュウは船に乗ったことあんのか?」


 前世ならあるけど、こっちの世界ではないね。文明レベルを見るに構造も材質も違うだろうし、乗り心地に違いとかあるんだろうか? まあ、私はスキルの影響で船酔いしないだろうから関係ないけど。


「俺は奴隷の時に一回乗ったぐらいだな。『乗った』つうか、『載せられた』って感じか。ずっと寝てたからあんま覚えてねぇんだよな」


 今回は護衛として乗り込むわけで、そんなに好待遇はされないだろうねぇ。落ち着いたら皆で世界一周船の旅とかしてみたいもんだ。何が落ち着いたらなのかは知らんけど。


 そんな他愛のない話をしていれば、レントが戻って来る。


「もう間もなく出航するそうだ。今のうちに軽く船内を見ておこう」

「へいへい、りょーかい」


 レントの後に続いて、船へ乗り込む。……思ったよりは揺れないな? まあ数人乗っただけで傾くようなら不安すぎるからいいんだけど。てか、今は停船中だし、動き出すとまた違うんだろうね。 


 うーん、乗り込んだはいいけど、船乗りたちの視線は好意的とは言えない。当然だよね。


 評判最悪の大悪人らしいシド。全裸幼女を連れ回すド変態レント。とにかく謎でしかない私。誰が呼んだか三人合わせて、絶対関わりたくないブラザーズってね。主に私が勝手に呼んでるだけだけど。


 ただし、戦力は本物だ。シドもレントも、魔物なんて軽くひねる力がある。好きだ嫌いだなんて、命が掛かっているなら気にしてられない。例え関わりたくない奴らでも、それで命が助かるなら喜んで握手を求めてくるだろう。

 

 ところで私が役立たずって話、する? いや、ね? 私だっておとりくらいにはなる。囮で運用されるなら誰よりもうまくやってのける自信がある。睡眠も食事も無しで二十四時間三百六十五日、淡々と働くこともできる。あと、ほら。かわいいじゃん? マスコット的なね? 何なら自分、釣りの餌にもなりますよ。丸呑みされて消化される程度、全然復活できるんで!


「なーんか、しょうもねぇ事考えてんな?」

 

 は? シド貴様、しょうもないとはなんだ、しょうもないとは。こっちだって必死にアイデンティティを獲得しようとしてるの! このままだと主人公の立場が喰われちまうよ。いや、別に私は物語の主人公でありたいってほどの積極性はないんだけどさ。


「僕たちは甲板にいるとして、キュウはどうする? 一応、割り当てられた部屋がある」


 んー、私がいても邪魔になるだけだし、到着まで部屋に籠っているのもアリ。でも、せっかくなら異世界の海とか見てみたいよね。


 ぶっちゃけ海に落ちれば飛べばいいし、魔物に殺されることもないし。あ、鳥に攫われたりしたらちょっと面倒だけど、そこは二人が何とかしてくれるだろう。

 

「上いる」

「分かった、あんまり僕から離れないようにしてくれ」

「そういや、飯はあんのか?」

「いや、僕たちの分は僕たちで用意することになっている」

「おいおい、俺はなんも持ってねぇぞ? 釣り具でも買ってくるか?」


 お、早速私が餌として輝く場面キタ?


「いや、僕が持っている」


 レントがそう言いながら空間に手を突っ込んで、中から綺麗に処理された肉塊が出てくる。その魔法便利ね、私も欲しいわ。


「僕は旅慣れしているから、料理も期待してくれていい」

「酒はあるんだよな!?」

「たっぷり買ってある。心配するな」

「愛してるぜレント!!」

「おい、離れろ」


 あらやだ、まだ日も高いのに。……これだからバカップルってやつは。


 私はお邪魔にならないように、二人から離れる。というか、船員たちがドン引きした目で二人を見ていたから離れる。私は無関係です、野良の吸血鬼です。きゅーきゅー。


 まもなくして船長らしき人が挨拶に来て、出航準備が整った。船が動き出して、港から離れて行く。




 船が動き出してから十分ほど経ったその時。


「すまない、酔った」

「おう、休んで来い」


 えー、……レントお前船酔いマジ? なーにが「僕から離れるな」だ。魔獣関係なく勝手に自滅してるじゃないか。今魔獣来たらどうすんだ?


「シドは?」

「俺? 俺は酔わねぇよ。言っただろ? 二日酔いしないって」


 二日酔いと船酔いは別物だろ、というツッコミは置いといて。まあ、酔わないなら何でもいい。


 ここから一週間。レントは恐らく使い物にならない。ほんと、シドが付いてきてくれなかったらどうなっていたことか……。

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