第10話

 今日は昨日の夜レントが言っていた通り、飛竜の討伐依頼をこなす日だ。いつものようにシドの部屋へ三人集まって、作戦会議。


「その作戦では取り逃がした時に町へ被害が出る」

「ああ、そーだな。んじゃ、俺はここで待機して……」


 シドとレントの二人は簡易的な地図を机に広げて、あーだこーだ言ってる。いつもよりも念入りだ。


「そういえば、キュウは本当に戦闘が一切できないのか?」


 なんだいレント、突然。できないよ。


「吸血鬼って血を操るんだろ? 直接攻撃は出来なくても、間接的に戦闘を助けるような能力はねぇのかよ」


 おうおうシドまで……ふむ。転生特典は把握してるけど、吸血鬼本来の性能はそこまで確認してないんだよね。


「待って」


 二人にそう言ってから、自分のスキルを確認する。


『吸血』『飛行』……なんか色々あるねぇ。この『血の支配』ってスキルがシドの言っていたやつかな? 自分の血液や他人の血液を操れると書いてあるけど、使ってみなきゃちょっと分からない。 


 この『眷属化』とか『変身』あたりはどうだろう。どっちのスキルも名前通り、想像通りの効果だ。……そこらの鳥を眷属にしたところで飛竜にかなうとは思えないなあ。


 んー? お、『変身』はちょっと使えるかも。完全コピーとはいかないが、ステータスが変身対象にちょびっとだけ寄るらしい。飛竜に変身すれば、狼一匹くらいなら倒せる攻撃力になるかもね。まあ、その程度のステータスで百回殴るより、シドたちの一撃の方が重いだろうけど。


 うん、戦闘はやっぱ無理。


「無理」

「そうか。安心しろ、キュウは僕が守るからな」

「別にこいつは守らなくても死なねぇけどな」


 まあまあ、私は戦闘無理でも、戦闘しかできない脳筋が二人もいるんだ。これでパーティーのバランスが取れてるってもんよ。え? 私は何もしない穀潰しじゃないかって? うーん、正解。


 今の所この二人が私を追放とかする気配はないし、今後もされる心配はないだろう。けど、なーんもせずにいるのもそろそろ心苦しい。あのですね、一応私にも良心みたいなものがあってですね。ちょっと図太くなりきれないところがある。


 ゴブリンの巣とかオークの巣を攻略した時、私はずっと見ているだけだった。謙遜とかじゃなくてマジで見ているだけだった。それどころか敵に捕まりかけて迷惑をかけたりね。


 ……飛竜討伐の時は色々試してみようか。どうせ二人で戦って、私は放置されるだろうし。





 飛竜は町から程よい距離にある炭坑に住み着いてしまったようだ。飛竜は夜行性で、昼は寝ている。そこを叩くという作戦。


「威力は押さえろよ、レント。古い炭坑だし、マジで崩れるぞ」

「ああ、追い出したらシドも頼むぞ。町とは反対方向に追い立ててくれ」

「任せとけ」

「キュウは炭坑の入り口あたりに隠れておくといい。それなら何かあった時に、僕がすぐに助けに行ける」


 作戦の最終確認をしてから、いざ戦闘開始。私は炭坑の入り口付近にある土の山に隠れる。レントは慎重に炭坑内へ入っていき、シドは町のある方を背にして飛び出してきた飛竜に備える。


 さて、色々遊ぼう。まずは『血の支配』から。


 自分の指をレントから借りたナイフで切って、スキルを発動。


 おお、なんていえばいいんだ? ポタポタ落ちる血を操れる。空中で止めたり、形を変えたり、自由自在だ。


 もっと大量の血で試してみたいけど、ダメだ。自分の骨が固くて指すら切り落とせない。クソ、自分の健康な肉体が憎い……手首切っても思ったより血が出ないし。


 まあいい。『変身』は飛竜が出てから試すとして、次は『眷属化』でもやってみよう。


 スキルを発動しながら自分の血液を与えることで、生物を眷属にして操ることができる。丁度指から血が出ていることだし、その辺のリスでも鳥でも捕まえて実験してみたいんだけど……見た目相応の身体能力しかない私が野生動物を捕まえられるわけがないんだよね。


 私ががっかりしていると、炭坑の方から凄まじい咆哮が飛び出してくる。始まったようだ。


 飛竜ってどんな見た目なんだろう。ドラゴンだと思うんだけど、トカゲタイプだったり蛇みたいな奴だったり、前足が羽になってるパターンもある。


 頭を土の山の影から出して炭坑の出入り口を見ていれば、ドシンドシンという振動と共に、トカゲみたいな顔が飛び出してきた。前足と羽が一体化しているパターンのドラゴンだ。よし、見た目は覚えたから、これで『変身』のスキルが使える。


 今変身すると二人に間違って討伐されかねないので自重する。って、うん? なんか飛竜と目が合っているような。


 次の瞬間、目の前に飛竜の口があった。


「キュウ!」


 飛竜を追って出てきたレントの叫び声が聞こえる。


 私はぱくりと喰われて、視界が完全に真っ暗になる。え、ちょっと。


 そしてふわりとした浮遊感。ドラゴンに攫われるとか、私ってば王道ヒロインかよ。


「おい、待てよトカゲ野郎!」


 お、その声はシド! さあ私を助けてくれ。私は不死身系ヒロインだから、巻き込むとか考えなくていいぞ、思いっきりやってくれ。


 私の祈りが通じたのか、すさまじい衝撃。地面に叩きつけられるのが分かる。


 飛竜の口が開けられて、視界に光が戻る。


「ったく、なんで隠れてねぇんだ。いくら不死身とはいえ、あんま気ぃ抜いてるといつか痛い目見るぞ。お前」

「無事か、キュウ。……いや、そうだな。ケガなんてするはずないか」


 そうそう、レントもいざという時は私ごと、今のシドみたいに容赦なくやっていいからね。


 って、そうじゃなくて。『変身』だよ『変身』。今なら試しても私だって分かるだろうから、間違って攻撃されることもないだろう。


 私が飛竜の姿を思い浮かべて、『再生』と同じ要領で魔力を体に流す。すると、自分の体が変形していくのが分かる。


「へぇ、キュウ。お前、面白れぇ事できるんだな」

「……まあ、いいんじゃないか」


 シドは面白がってるけど、レントからの評判は悪い。まあレントは私の見た目が好きなんだから当然か。


「お、いい事思いついたぜ。キュウ、お前そのまま飛べるか?」


 え? まあ飛べるけど。そもそもドラゴンに変身しなくても飛べるし。


「なら、キュウの背中に乗って行けば、船を待たなくてもどこでも行けんじゃねぇか?」


 えー……二人乗せるのー? より魔獣感が強まるなぁ。別にいいけどさぁ。


「いや、やめておこう。最悪不法入国になる」

「おっと、それはまずいな」


 それはホントにまずいよ。


 なんやかんやあったけど、これで飛竜討伐依頼は達成だ。今後の予定はちょっと休憩して、予定通り船で獣人の国へ行く。そういうことで話がまとまった。


 夜は酒場で、飛竜討伐記念に祝杯。なんか色々理由をつけて、私たち毎日酒飲んでるのはどうなんだ? 主に言い出すのはシドで、最近はレントの飲む量が増えてきた。初めて会った日は一滴も飲もうとしなかったのに。


「んじゃ、また明日な」

「ああ、シド。ゆっくり体を休めてくれ。……さあ、キュウ帰るぞ」


 レント酒クセェ。当たり前にベットが同じ。おい、私は抱き枕ではない。……寝てやがる。


 ……はぁ。これは打ち解けてきたってことでいいのかね。





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